その優しさでとどめを刺して

***

人前で泣くなんて久しぶりのことで、きっと涙腺がバカになっていた。
そのついでに思考能力もバカになっていたんだろう。
だから、あんなことをうっかりと言ってしまったのだ。


嫌いにならないで、なんて。


すっと急激に頭が冷えていく。

今まで散々遠ざけようとしてたくせに、いったいどの口がと思われてるだろうか。


ひとりにして欲しい。
そばに居て欲しい。

そんな正反対の感情に振り回されて、でも本当に厄介なのは圧倒的に後者の方だった。


ただずっとそばに居て欲しかった。
ひとりになんてしないで欲しかった。

でも恋人でもないくせに、そんなこと言えないから。


情けなく縋ったところで置いて行かれたら、私はきっと立ち直れないから。


だからそれなら初めからひとりにして欲しいと強がって。


シロはそう言われて、はいそうですかとひとりにするような人じゃないから。


それをわかっていて甘えていたのだ。


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