クズとブスの恋愛事情。
一方の風雷はと言うと、たくさんの包帯と点滴、酸素マスクをされ城の病室のベットに寝かされていた。
目を覚まし、ボヤける視界と頭がハッキリする頃には、自分は城の病室にいるのだと瞬時に理解した。
そして、周りを見ると一流の医療魔道士や回復魔道士達、そしてリュウキの姿があった。…しかし、そこにはハナの姿はなかった。
…当たり前か…
あんな酷い事をしてしまったんだ
俺の顔なんて見たくもないよな
と、落ち込むも、ある疑惑も脳裏に浮かんできた。もし、そうなれば最悪だ。早く、真実を伝えなければハナが無実の罪で捕まってしまう!
そう焦った風雷は
「…っ……ハ、ハナは……!?」
声を出したが、声が潰れていて声を出すたびに焼ける様な激痛が喉を走り風雷は咳き込んでしまった。
それを回復魔道士が、風雷の喉目掛け回復魔道を施す。おかげで少し和らいだが苦しいし痛みが取れない。
「ハナは、殺人未遂、強姦未遂の疑いで留置所にいる。」
と、言うリュウキの言葉に風雷の最悪な予測が当たってしまいサッ…と青ざめた。
「…ち、違う…ゲホゲホッ!…ハナは、そんな事…して…な…ゲホゲホッ!…ガハッ!!」
苦しく痛む喉と胸を押さえゼェゼェと肩で息を吸う風雷は呼吸するのさえ辛そうで、見ているこっちまで辛くなってきそうだった。
「だろうな。俺も、ハナは無闇に人を傷付けるとは思えなくてな。」
そう言ってくれたリュウキに風雷は、何度も縦に首を振ってハナの無罪を訴えた。
「まあ、ハナの事はお前から証言や裏付けも取れた事だし、もう大丈夫だ。」
と、言ったリュウキの言葉に風雷はホッとし肩の力が抜けた。そして、言葉にならない言葉で「…良かった…」と、泣いていた。
「しかし、風雷お前も驚いただろ?ハナの圧倒的力と鋭い野生的勘に。」
なんて、悪戯っぽく笑って聞いてくるリュウキに、風雷は自分のせいでバーサーカーと化したハナの姿を思い出し一瞬青ざめ慄いた。
その姿を見てリュウキは
「ハナは、魔道や魔力を一切持たない。だが、代わりに化け物じみた身体能力と魔道や気を固形化して打ち破る能力もある。初めて、その能力を見た時は度肝を抜かれたな。
その能力は、気功術なのか波動術なのか正体は未だ不明だが、そんな事をやってのけられるのは未だハナしか見た事がないな。
しかも、恐ろしい事にハナの攻撃を受ければ回復魔道や医療魔道を使っても治りがたいという点だ。
通常、回復・医療魔道で全回復できる怪我も、ハナの攻撃を喰えば、1/10も治れば上々。大概は、魔道や気道では治らず、自分の元々持っている自然治癒でゆっくり怪我が治るのを待たなくてはならない恐ろしい力だ。」
初めて聞く話に、風雷は驚きの表情を浮かべリュウキを凝視していた。
「お前も目が覚めた事だし、お前の回復魔道で自分を治したらいい。普段はこのくらいの怪我も、お前の魔道ならほぼ完治に近い状態まで治す事ができるんだろうが…。
なにせ、ハナから受けた攻撃だ。そんなお前でも半分治す事が限界だろう。だが、半分も治れば、だいぶ楽になるぞ。」
そう言われたのだが、風雷は少し弱々しい表情を浮かべそれを拒み首を振った。
そこで、更に様子がおかしい事を感じ取ったリュウキは、せめてまともに喋れるだけでも回復するよう命じ風雷が普通に喋れるようになった所で二人の間に何があったのか話を聞いた。
そして、風雷の話を聞いてリュウキは頭を抱えた。
「…ハア。つまり、桔梗に風雷との圧倒的な魔道と力の差を見せつけられプライドがポッキリと折れてしまったお前は、腹いせにハナにそのどうしようもない気持ちをぶつけ性的暴力で発散させようとしたのか。」
と、いうリュウキの言葉に風雷は頷いた。
「ところが、ブチ切れたハナによってフルボッコにされて、今の状態があると。」
その言葉にも静かに風雷は頷いた。
「だが、不可解なのは何故かハナが素っ裸だった事と、お前がハナに無抵抗のままハナのサウンドバックになっていたかという点だ。」
リュウキの鋭い指摘に、風雷はやはりこの人は見逃してはくれないかとドキリとしてしまった。
「ハナの素っ裸はひとまず置き、仮にもお前は13才にして…まだ誕生日が来てないから12才か。
そんな若さで、S級…いや、俺がここに来る直ぐ前に魔導省からお前に関する通達が来てな。
こんな時に伝えるのもなんだが、今からお前は
“得S級魔道士”
になった。しかも、帝王直属の聖騎士団副隊長でもある。
いかに、ハナが規格外の力を持つ騎士団長だとしても、そんなお前がハナが相手だったとしてもお前だけがそんな瀕死状態になるまでの実力の差があるとは思えなくてな。」
そう言ってきたリュウキに、この人は桔梗同様に何でも見透かす。下手な嘘や誤魔化しなんて一切通用しない。
と、分かりきっていた事だったので、話したくはなかったが仕方なく風雷は静かにその時あった事実を簡潔に話した。
「最初は自分と桔梗の実力の差に心が折れて、腹いせにその思いをハナに聞いてもらって慰めてもらうつもりだった。
…だけど、ハナの事を考えていたら両思いにも関わらず俺を拒み続けるハナにも段々と腹が立ってきて、気がついたらハナを犯す事しか考えられなくなってしまっていた。」
…それが、大きな間違いだった
「最初のうちはハナも俺をいなしてたし、何ならハナ自身裸になって
“どうだ、私の裸は気持ち悪いだろ?だから、こんな事やめときな。”
“私の事は一時の気に迷い。珍獣が物珍しかっただけさ。”
そう心の声が聞こえてくる様なアピールをしてきた。
だけど、そう思ってるのはハナだけで、長年ハナに恋心を募らせてきた俺にとっては鴨がネギをしょってくる状態で…裸で迫られたら我慢なんてできなかった。」
そこまで聞いて、あ〜…ハナならやりそうな話だなぁとリュウキは頭を抱えながら風雷の話を聞いた。
「…俺は、我を忘れて…その……ハナの……そこを……口や舌で……いや、それ以上はちょっと……」
と、風雷は顔を真っ赤にしながら挙動不審にも目はあちこち動いている。物事をスッパリハッキリ言う風雷には珍しく言い淀んで話が進まなくなった為そこは省き話を進めるようリュウキは促した。
「…ハナの体に夢中になりながら俺は、自分の胸の内を吐露した。桔梗のとんでもない力を見て心が折れた事を。そしたら、急にハナの体が硬直してハナは俺に聞いてきた。
“…つまり、自分がむしゃくしゃしてるからその憂さ晴らしに私をメチャクチャにしようって思ったのかい?”
そう、なんの感情も感じられない声で聞いてきた。最初はそういう目的ではなかったが結果的にはそうなってしまったと思い、俺がそれを肯定した瞬間だった。」
これからの行動が予測できてしまったリュウキだが、椅子に座ったまま両手で頭を抱え最後まで風雷の話を聞く事にした。
この証言により、風雷とハナの処罰も決まる。その為に、真実を知る為にリュウキは風雷の話を聞いている。
ハナは、チャランポランに見えて頑固だ。こうと決めたら、決して自分を曲げない。自分が間違っている場合はすぐさま簡単に折れてくれるのもハナの素晴らしい所。
だが、今は自分は間違ってないと頑固を貫いているので、そうと決めたハナにいくら話を聞いても無駄だ。
このままでは、学生にも関わらずハナには少し重い刑罰が処せられる可能性も高い。
「気が付いたら、ハナは俺の首を掴み持ち上げ宙に放り投げるといきなり俺を殴る蹴るといった…暴こ……事をしてきた。いきなりの事だったし、あまりの激痛に何も考えられないままハナの攻撃を受けていた。
…だけど…、微かに見えるハナの顔は今まで見た事もない血走った顔と大量の涙……、それを見て俺はとんでもない事をハナにしてしまったんだとさほど働かなくなった頭でボンヤリとそう感じて悲しくなった。
大好きな人を…愛する人を自分の欲望の為に深く傷付けてしまったのかと…」
…なるほど。だから、せめてもの罪滅ぼしにハナの攻撃を全て受け止めようと考えたという訳か
…ハナの攻撃をなぁ…
と、考えただけでリュウキは、ゾッ!としてしまった。そんな事は、どんな事情があっても自分には無理だとリュウキは身震いしながらも
しかし、風雷の恋心が理解できん。なんであんな脳筋ゴリラを異性と思えるのか?そんな脳筋ゴリラに恋心をもち、性的にも魅力を感じるのか…風雷はゲテモノ好きか?もったいない
せっかく、こんなにも綺麗な容姿をもち全てにおいて超ハイスペックに生まれ育ってきたというのに
どんな絶世の美女達も選び放題なのに、なんであんな筋肉馬鹿ゴリラに夢中になれるのか不思議でたまらん
と、ハナの事を恋愛対象として見れる風雷が不思議で理解不能であった。
「そして、俺を殴る蹴るを繰り返すハナの叫びの言葉に俺は驚いた。ハナは我を失って無意識に喋ってるみたいだったが…。
ハナは、赤ん坊の頃『不細工な子供はいらない。うちの子として受け入れられない。』って、理由で両親に捨てられて施設に入れられたんだね。」
…ブチ切れたとはいえ、ハナがそんな話を人に話すとは思えん
ハナは、よほどなまでに風雷の事を信頼しきっているんだな。…本人がそれを理解しているか不明だが
リュウキは、自分の事に無頓着なハナの事を考えて頭が痛くなってきた。
「その施設は最悪な所で、特殊な性癖のお偉いさん達がやってきては、お気に入りの子ども達…とんでもないのは、信じられないけど生まれたばかりの赤ん坊も性の対象にして…施設員達は、施設の子供や赤ん坊を大金と引き換えに子供達や赤ん坊にまで性を売らせていた。
碌な食事もなく、日常的に様々なハラスメントや暴力行為は当たり前。
性行為により未熟な体を壊されても放置。挙げ句、あまりに未熟な体に性行為をして内臓や脳の損傷や感染病で亡くなるケースも多く、それはお偉いさん達の力でその事件をなかった事にして揉み消していた。」
ハナは、赤ん坊の頃からそんな烈悪化な場所で育った。
「ハナは、どうしても性の対象には見られず、代わりに体も大きく無害そうな顔立ちだった事から毎日のように暴力を振るわれ酷い言葉ばかり言われ続けた。特に容姿の事を馬鹿にされ嘲笑われていたらしい。
そこまでしか聞く事はできなかったが、次のハナの言葉に俺はショックを受けた。
“お前も、アイツらと同じなのかーーーーーっっっ!!!!??”」
そこまで言って、風雷はガクッと頭を項垂れさせ悔しそうに両膝のズボンの布をギュッと握り、大粒の涙を流し泣いた。
リュウキはそんな風雷の方に優しくポンと肩に手を置くと
「気持ちをしっかり持て。今、お前たちに必要なのは話し合いだ。しっかり、包み隠さず本音で話し合う事だ。」
そう言って、善は急げとばかりに
無罪だから留置所から出ていいと言われても、断固として出ていこうとしないハナの所へ風雷を連れて行ったのである。
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ーーーーーー
【城内留置所】
「…はあ。聞きましたよ。そうだろうとは思っていましたが、個人練習の魔道不使用組み手でヒートアップし過ぎて、副団長の事ボコボコにしたって。
そりゃ、いくら格闘技でもトップレベルの副団長だって、魔道無しで無敵の団長には敵いませんって〜。
いくら、やり過ぎて反省してるからって犯罪者じゃないんですから、いい加減ここから出て行ってもらわないと困るんですよ〜。」
と、留置所で堂々と寝転んでるハナに向かって、看守は早く出て行ってくれと説得している。
それでも、聞く耳持たずで他の看守達も巻き込んで、ハナを説得している。困ったなぁ、参ったなぁとみんなが頭を抱えている時だった。
奥から何か足音が聞こえるな〜、また応戦が増えるのか。だけど、この何考えてるんだか分からないゴリラ男…あ、でっかいオッパイが付いてるから一応は女か…を、いくら人を増やした所で説得できる気がしない。
と、その場にいた看守達は絶望の目で、次にやってくる警察関連の人達であろう人物達を待った。
…しかし、そこから見えてくる人物達に気がついた看守達の間に一気に空気が張り詰められた。
「こ、これは、騎士副団長様、将軍様!ようこそ、おいでいただきました!」
と、看守達はど偉いお偉いさん達を目の前に緊張しつつも、最大の敬礼をして挨拶をした。
リュウキは素性がバレないように、よく使っている変身魔道の長けた魔道士に変装させてもらい服は将軍の服を着ている。
これは、戦場に行く時に身分を偽りよく使っている方法で、情報収集や息抜きなどで身分を隠し一般人になりすます事も多い。
「頑固な団長様を説得しに来た。取り乱したり格好悪い所は見せたくないと思うのでな。
団長様の気持ちを考慮して、団長様と副団長様の二人きりにさせたいのだが大丈夫か?」
と、聞く将軍様に逆らえる筈もなく二つ返事で、将軍と共に看守達は気を利かせ外へ出て行った。
二人きりになった風雷とハナ。
ハナは何も言わず、風雷と逆方向にゴロンと寝返った。
その様子を見て、何となくハナの気持ちを察した風雷は檻の中に入る事なくハナの入っている檻の外の鉄格子に背中を預け床に座った。
そして
「ハナ、まず最初にこんな形で言うのは失礼だと思うけど……ハナを傷付けてごめん。許される事ではないけど、きちんと言葉にして直接謝りたかったから。」
風雷が、静かにハナに謝罪の言葉を述べてもハナからは一切の返答はなかった。
……ズキン……
「…こんな話をしたって仕方ないのは分かってるけど、ハナだけには聞いてほしい。知ってほしい話があるんだ。独り言でかっこ悪いけど、俺の生まれはこの国ではない。
美と芸術の国、オモルフォス王国生まれの第三王子として生まれた。
だけど、俺の才能や能力に嫉妬した兄弟達に虐められ、大人達からは性的に見られ襲われてもおかしくない状態だった。実際、色々な手段で誘われたり襲われかけた事も少なくなかった。
だから、いつ何時も油断しないよう周りに気を張り怯えながら毎日を過ごしていた。」
と、いう話を聞いて思わずハナはその巨体を起こし酷く驚いた様子で風雷を見てきた。
その様子を見て
「…ようやく、ハナの顔が見れた。嬉しいよ。」
そう言って、風雷は全身包帯だらけの痛々しい姿で優しい笑みを浮かべハナを愛おしそうに見てきた。
だが、何をどう声を掛けたらいいのかハナは困惑し、何か声を掛けたいのに何も掛ける言葉が浮かばずもどかしい気持ちだった。
そして、自分が暴力を振るったせいで痛々しい姿になった風雷……罪悪感で心が押し潰されそうだ。
「そして、俺が7才の頃に実の母親に襲われた。母親も“そういう目で見てる”とは感じてたけど、まさか実の息子である自分を襲ってくるとは思わなかった。
そこを皮切りに、自分の兄弟達からも体を狙われて薬やら魔道、色々な手段で俺を性の捌け口にしようとしてきた。
俺はそれから何とか逃れながらも、兄弟達が手を組んで自分を襲ってきた時には身の危険に限界を感じて、城で唯一といってもいいであろう実の父親にその事を相談して、父親の弟であるリュウキ叔父さんの所へ引き取られる事になった。
そして、戸籍をリュウキ叔父さんの弟にしてもらって、そこの家とは縁を切って今がある。」
そこまで話すとハナは驚愕の表情を浮かべ、その巨体からは想像できないくらいのスピードと繊細な動きで風雷の所まで来るとギュッと風雷を抱き締め
「……よく、無事で…!!」
と、自分の事のように泣いてくれた。
…トクン…
不器用な慰め方だけど、大きくて温かな体に包まれて風雷は自分のいる場所はここだと再確認していた。
…温かい…
ハナが側にいるだけで、凄く安心するし癒される
…やっぱり、好きだな
不器用で誰よりも愛情深いこの人を離したくない
ハナの誰にも理解されない不器用な優しさも懐の深さも…弱さも全て、俺が守ってあげたい
「…ハナの事も聞いた。毎日のように
“お前は不細工で、女の魅力がないから親に捨てられた”
って、言われ続けてたみたいだけど。」
風雷が、そうハナに言葉を掛けるとあからさまにハナの大きな体が飛び跳ねバクンバクンと風雷の心臓にまで伝わってくる程、ハナの心臓は恐怖で大きく暴れていた。
そんなハナの背中を優しく撫でながら
「みんな節穴しかいないのかって驚いた。こんなにも、可愛い女性はどこを見渡したって俺は見た事はない。
不器用過ぎて誰も分かってくれない事も多いけど、ハナは誰よりも心優しくて情に脆くて儚いか弱い女性だって事、何年もハナの側にいてずっとずっとハナを見てきた俺は知ってる。
……だから、愛するハナを俺は守りたい。例え、それがただの独りよがりだと馬鹿にされようともその気持ちは絶対に揺るがない。
誰が何と言おうと、俺はハナが可愛くて愛おしくて堪らない。」
…トクン!
「もし、誰もハナの女性としての魅力にに気付けてないなら、俺は本当にラッキーだ。
だって、こんなにも俺の心を掴んで離さない女性はハナしかいないから。こんなにも、素敵な女性を俺一人だけが分かってあげられるこの優越感分かる?
そんな素晴らしい女性を独り占め出来るかもしれないこの気持ち分かる?」
…ドックン…!
「こんな時に、言う話じゃないけど。
ハナは俺に、ハナを諦めさせる為に取った行動だと分かっていても俺を誘惑してきたハナに興奮して飛び付いてしまうくらいに俺は、ハナに常日頃からこれ以上ないエロスを感じてる。そんな事、感じさせるのはハナだけ。」
…トクン…
「もう、認めて?俺に、深く愛されてる事。俺の気持ちを受け入れてほしい。
永遠の愛を誓う。ハナが不安なら、毎日心からの愛の言葉を捧げるよ。」
…トクン、トクン…
「……あはは!愛の言葉やアプローチなら、毎日受け取ってるよ。ただ、私がそれを受け入れる度胸がなかっただけでね。…うん!決めた!
お前が真正面からぶつかってきてくれてるんだ。今度はそれに私が応える番だね。」
と、ハナは泣き腫らした顔をあげ、ニカっと笑顔を見せると
「何年も意気地なし拗らせて待たせてしまって済まなかった。お前をボコボコにした事は謝らない。お前は、それだけ馬鹿な事をしたんだ、そこは猛省しろ!」
なんて、しっかりと説教をしたところで
「…まあ、私はこんなんだから周りに色々言われるだろうし、悪口や嫌がらせもしょっ中だろうよ。それでも、いいって覚悟があるなら。
私は全身全霊、全力でお前を受け入れる。なにせ、私はお前に一目惚れしちまってから、お前という人なりを間近で見てきてそこにも惚れちまったんだ。
こんな私で良かったら、お前の恋人にしてくれないか?」
と、少し照れくさそうにハナは頭をボリボリ掻きながら告白してきた。
…しかし…
「…それは、すまない…」
さっきまで、そういう雰囲気じゃなかったの!?
あれ?私の早とちりかーーーーーッッッ!!?
と、カァーーーッと顔を真っ赤にして、パニクッって何か言い訳を考えるハナに
「今すぐ、結婚して!」
なんて、風雷は突拍子もない事を言ってきた。
「…え?…んん???私の聞き間違いか?…さっき、結婚って言葉が聞こえた気がしたんだが…?
結婚っつったって、15才以上じゃないと結婚できないよな?まして、未成年の場合は両親の同意書まで必要だ。…やっぱり、聞き間違いか!あはは…!」
と、ハナは耳くそをほじっていると
「真面目に言ってる。それに、それは一般的な話で俺達は学生でもあるが、社会人ましてやこの星のNo.2とNo.3という立場だ。
法律では、社会人として働いている場合に限り親や年齢に関係なく結婚ができるとなってる。
俺は至って本気だし、ハナを自分の伴侶にして大切に甘やかしたい。」
とんでもない告白をしてきて、心底風雷に惚れ込んでるハナはもう頷く他なかった。
結婚の承諾を得た風雷の行動は早かった。
あれよあれよという間に、婚姻は承諾されその日のうちに二人は見事に夫婦になったのである。
そして、二人が社会勉強の為に学生の内だけでもと敢えてボロいワンルームのアパートに暮らしている。その片方の部屋を解約して、ハナの部屋は汚部屋なのでさっさと撤去し、風雷の潔癖で完璧なまでに綺麗にしてある(でも、ボロい)部屋へと二人で住む事になった。
そこで、風雷のいつもの甘くアダルティーな誘惑と自分の心の蓋を開放したハナは、ようやく長年の気持ちも叶い熱く甘〜〜〜い夢のような時を過ごし
夢中になり過ぎた風雷は、防音バリアーを貼り忘れアパートや近隣住人から“アレの声がうるさい!”と、苦情が殺到したとかしないとか。
………………………
……………
………
風雷の頭の中を覗き終わった桔梗とショウは、驚愕した表情で風雷を見ていた。
そして
「…凄く、大変だったね。でも、色んな苦難を乗り越えて二人は結こ…むぐっ…!!!?」
と、感動の涙を流しながら風雷に結婚の祝福の言葉を掛けようとしたショウに、桔梗はギョッとして慌ててショウの口を塞ぎ
『色々事情あるから、俺とハナが結婚した事は内緒にしてくれ!』
と、テレパシーでショウと桔梗に注意した。
「分かったよ。とりあえず、良かったね。
おめでとう。」
桔梗は、ショウの口を塞いだ風雷の手を退け、ショウの口をノンアルコール除菌を3枚使い入念に拭いてから菌終了の合図に小さくチュッとキスをして
親友の長くもどかしくて見てるこっちまでイライラしていた二人の両片思いが無事終了した事を祝福したと同時に、風雷へテレパシーで
『…ブフッ!!あのゴリラ落とすまで何年掛かってんだよ。時間かかり過ぎにも程があるよね。風雷に男としての魅力が足りなかったんじゃないの?
それか、いつも無愛想過ぎて色気がないとか?』
と、桔梗は言いたい放題、風雷をおちょくってきた。それには、風雷もイラっとしたのだが
『永遠とも思えた恋が成就して、念願のドーテー卒業おめでとう。本当にさ。風雷は家庭や周りの最悪な環境があって人間不信になってさ。』
風雷をおちょくっていた筈が急に真面目な話をし出し
『ハナはハナで、生きるか死ぬかの地獄の様な施設で育って…心の傷が深い問題だらけの二人が結ばれるなんて正直考えられなかった。
風雷はハナに強く惹かれて心を開いて熱心に口説いてたけど。ハナは、複雑過ぎる心の病があるから何があっても恋愛関係には無縁だと思ってた。だから、一生お前達は恋だの結婚だのできないと思ってた。
…お互い両思いなのにさ。風雷がプライドも何もかも投げ捨てて必死になってハナを口説く姿も知ってるから……』
と、言ったところで
…ポロッ…
悪ガキのように笑ってる桔梗の目から、美しい雫が一粒流れ落ちていた。
「……あれ?…なんだ、これ?」
桔梗も自分に何が起きてるのか、自分でも分かっておらず不思議そうに自分の雫を手で掬い取るとマジマジとそれを見てますます不思議そうに眉間に皺を寄せて考えていた。
突然の桔梗の涙に、みんな驚くも
桔梗の目元を優しくハンカチで拭き取ってきたショウも涙を流しながら
「桔梗、嬉しいね!すごく長い間、見守ってきた友達の恋が叶って感動しちゃった。
本当に、たくさんの邪魔と…色々あったから。それを乗り越えて、ようやく結ばれたんだもん!嬉しいに決まってるよね。」
と、嬉し泣きするショウの言葉で桔梗は驚いた。
まさか、この自分がショウや自分以外で親友とはいえ他人の為に涙を流す日が来るなんてと。
驚き過ぎて硬直する桔梗に、風雷まで感極まって
…ガシッ!!
と、男らしい友情を感じられるハグをして
「…ああ、ありがとう。」
と、少し照れくさそうにお礼を言っていた。そして、不覚にも風雷も涙し、それに釣られ桔梗も次から次へと涙が溢れ落ち
「…クソッ!こんな筈じゃなかったのにな。お前の事、揶揄って笑ってやるつもりが…!…嘘だろ…マジかよ、ハハ…!」
なので、照れ隠しにこんな悪態をついて笑っていた。
友情のハグは一瞬ではあったが、風雷は照れ臭かったのかソッポを向き何事もなかったかのようにしようとしてるし
桔梗はここぞとばかりに、ゴロニャンとショウに甘えに甘えていた。
その時に
『この事は、風雷のお仕事の関係で絶対に恋人がいる、結婚したという情報は信用ある誰であっても知られてはいけない事だから俺とショウだけの秘密ね?
陽毬や唯、フジや両親にさえ絶対に言ってはダメな事みたい。それを言っちゃうと、風雷とハナの命に関わる問題みたいだから。』
と、桔梗がショウにテレパシーで伝えた事から、ショウは青ざめた顔で何度も頷き風雷を見て“大丈夫!誰にも言わないよ!”と、慌てて伝わらないジェスチャーを送り、桔梗の話は風雷にも聞かせていたので苦笑いしつつショウのジェスチャーにうなづく風雷だった。
このやりとりに、みんなも何が何だか分からないが雰囲気に飲まれ号泣していた。
あと、昼休み風雷に何があったのかとことん質問責めしてやろうと企む面々であった。
その念が伝わったのか、風雷はザワッと寒気を感じるのであった。
目を覚まし、ボヤける視界と頭がハッキリする頃には、自分は城の病室にいるのだと瞬時に理解した。
そして、周りを見ると一流の医療魔道士や回復魔道士達、そしてリュウキの姿があった。…しかし、そこにはハナの姿はなかった。
…当たり前か…
あんな酷い事をしてしまったんだ
俺の顔なんて見たくもないよな
と、落ち込むも、ある疑惑も脳裏に浮かんできた。もし、そうなれば最悪だ。早く、真実を伝えなければハナが無実の罪で捕まってしまう!
そう焦った風雷は
「…っ……ハ、ハナは……!?」
声を出したが、声が潰れていて声を出すたびに焼ける様な激痛が喉を走り風雷は咳き込んでしまった。
それを回復魔道士が、風雷の喉目掛け回復魔道を施す。おかげで少し和らいだが苦しいし痛みが取れない。
「ハナは、殺人未遂、強姦未遂の疑いで留置所にいる。」
と、言うリュウキの言葉に風雷の最悪な予測が当たってしまいサッ…と青ざめた。
「…ち、違う…ゲホゲホッ!…ハナは、そんな事…して…な…ゲホゲホッ!…ガハッ!!」
苦しく痛む喉と胸を押さえゼェゼェと肩で息を吸う風雷は呼吸するのさえ辛そうで、見ているこっちまで辛くなってきそうだった。
「だろうな。俺も、ハナは無闇に人を傷付けるとは思えなくてな。」
そう言ってくれたリュウキに風雷は、何度も縦に首を振ってハナの無罪を訴えた。
「まあ、ハナの事はお前から証言や裏付けも取れた事だし、もう大丈夫だ。」
と、言ったリュウキの言葉に風雷はホッとし肩の力が抜けた。そして、言葉にならない言葉で「…良かった…」と、泣いていた。
「しかし、風雷お前も驚いただろ?ハナの圧倒的力と鋭い野生的勘に。」
なんて、悪戯っぽく笑って聞いてくるリュウキに、風雷は自分のせいでバーサーカーと化したハナの姿を思い出し一瞬青ざめ慄いた。
その姿を見てリュウキは
「ハナは、魔道や魔力を一切持たない。だが、代わりに化け物じみた身体能力と魔道や気を固形化して打ち破る能力もある。初めて、その能力を見た時は度肝を抜かれたな。
その能力は、気功術なのか波動術なのか正体は未だ不明だが、そんな事をやってのけられるのは未だハナしか見た事がないな。
しかも、恐ろしい事にハナの攻撃を受ければ回復魔道や医療魔道を使っても治りがたいという点だ。
通常、回復・医療魔道で全回復できる怪我も、ハナの攻撃を喰えば、1/10も治れば上々。大概は、魔道や気道では治らず、自分の元々持っている自然治癒でゆっくり怪我が治るのを待たなくてはならない恐ろしい力だ。」
初めて聞く話に、風雷は驚きの表情を浮かべリュウキを凝視していた。
「お前も目が覚めた事だし、お前の回復魔道で自分を治したらいい。普段はこのくらいの怪我も、お前の魔道ならほぼ完治に近い状態まで治す事ができるんだろうが…。
なにせ、ハナから受けた攻撃だ。そんなお前でも半分治す事が限界だろう。だが、半分も治れば、だいぶ楽になるぞ。」
そう言われたのだが、風雷は少し弱々しい表情を浮かべそれを拒み首を振った。
そこで、更に様子がおかしい事を感じ取ったリュウキは、せめてまともに喋れるだけでも回復するよう命じ風雷が普通に喋れるようになった所で二人の間に何があったのか話を聞いた。
そして、風雷の話を聞いてリュウキは頭を抱えた。
「…ハア。つまり、桔梗に風雷との圧倒的な魔道と力の差を見せつけられプライドがポッキリと折れてしまったお前は、腹いせにハナにそのどうしようもない気持ちをぶつけ性的暴力で発散させようとしたのか。」
と、いうリュウキの言葉に風雷は頷いた。
「ところが、ブチ切れたハナによってフルボッコにされて、今の状態があると。」
その言葉にも静かに風雷は頷いた。
「だが、不可解なのは何故かハナが素っ裸だった事と、お前がハナに無抵抗のままハナのサウンドバックになっていたかという点だ。」
リュウキの鋭い指摘に、風雷はやはりこの人は見逃してはくれないかとドキリとしてしまった。
「ハナの素っ裸はひとまず置き、仮にもお前は13才にして…まだ誕生日が来てないから12才か。
そんな若さで、S級…いや、俺がここに来る直ぐ前に魔導省からお前に関する通達が来てな。
こんな時に伝えるのもなんだが、今からお前は
“得S級魔道士”
になった。しかも、帝王直属の聖騎士団副隊長でもある。
いかに、ハナが規格外の力を持つ騎士団長だとしても、そんなお前がハナが相手だったとしてもお前だけがそんな瀕死状態になるまでの実力の差があるとは思えなくてな。」
そう言ってきたリュウキに、この人は桔梗同様に何でも見透かす。下手な嘘や誤魔化しなんて一切通用しない。
と、分かりきっていた事だったので、話したくはなかったが仕方なく風雷は静かにその時あった事実を簡潔に話した。
「最初は自分と桔梗の実力の差に心が折れて、腹いせにその思いをハナに聞いてもらって慰めてもらうつもりだった。
…だけど、ハナの事を考えていたら両思いにも関わらず俺を拒み続けるハナにも段々と腹が立ってきて、気がついたらハナを犯す事しか考えられなくなってしまっていた。」
…それが、大きな間違いだった
「最初のうちはハナも俺をいなしてたし、何ならハナ自身裸になって
“どうだ、私の裸は気持ち悪いだろ?だから、こんな事やめときな。”
“私の事は一時の気に迷い。珍獣が物珍しかっただけさ。”
そう心の声が聞こえてくる様なアピールをしてきた。
だけど、そう思ってるのはハナだけで、長年ハナに恋心を募らせてきた俺にとっては鴨がネギをしょってくる状態で…裸で迫られたら我慢なんてできなかった。」
そこまで聞いて、あ〜…ハナならやりそうな話だなぁとリュウキは頭を抱えながら風雷の話を聞いた。
「…俺は、我を忘れて…その……ハナの……そこを……口や舌で……いや、それ以上はちょっと……」
と、風雷は顔を真っ赤にしながら挙動不審にも目はあちこち動いている。物事をスッパリハッキリ言う風雷には珍しく言い淀んで話が進まなくなった為そこは省き話を進めるようリュウキは促した。
「…ハナの体に夢中になりながら俺は、自分の胸の内を吐露した。桔梗のとんでもない力を見て心が折れた事を。そしたら、急にハナの体が硬直してハナは俺に聞いてきた。
“…つまり、自分がむしゃくしゃしてるからその憂さ晴らしに私をメチャクチャにしようって思ったのかい?”
そう、なんの感情も感じられない声で聞いてきた。最初はそういう目的ではなかったが結果的にはそうなってしまったと思い、俺がそれを肯定した瞬間だった。」
これからの行動が予測できてしまったリュウキだが、椅子に座ったまま両手で頭を抱え最後まで風雷の話を聞く事にした。
この証言により、風雷とハナの処罰も決まる。その為に、真実を知る為にリュウキは風雷の話を聞いている。
ハナは、チャランポランに見えて頑固だ。こうと決めたら、決して自分を曲げない。自分が間違っている場合はすぐさま簡単に折れてくれるのもハナの素晴らしい所。
だが、今は自分は間違ってないと頑固を貫いているので、そうと決めたハナにいくら話を聞いても無駄だ。
このままでは、学生にも関わらずハナには少し重い刑罰が処せられる可能性も高い。
「気が付いたら、ハナは俺の首を掴み持ち上げ宙に放り投げるといきなり俺を殴る蹴るといった…暴こ……事をしてきた。いきなりの事だったし、あまりの激痛に何も考えられないままハナの攻撃を受けていた。
…だけど…、微かに見えるハナの顔は今まで見た事もない血走った顔と大量の涙……、それを見て俺はとんでもない事をハナにしてしまったんだとさほど働かなくなった頭でボンヤリとそう感じて悲しくなった。
大好きな人を…愛する人を自分の欲望の為に深く傷付けてしまったのかと…」
…なるほど。だから、せめてもの罪滅ぼしにハナの攻撃を全て受け止めようと考えたという訳か
…ハナの攻撃をなぁ…
と、考えただけでリュウキは、ゾッ!としてしまった。そんな事は、どんな事情があっても自分には無理だとリュウキは身震いしながらも
しかし、風雷の恋心が理解できん。なんであんな脳筋ゴリラを異性と思えるのか?そんな脳筋ゴリラに恋心をもち、性的にも魅力を感じるのか…風雷はゲテモノ好きか?もったいない
せっかく、こんなにも綺麗な容姿をもち全てにおいて超ハイスペックに生まれ育ってきたというのに
どんな絶世の美女達も選び放題なのに、なんであんな筋肉馬鹿ゴリラに夢中になれるのか不思議でたまらん
と、ハナの事を恋愛対象として見れる風雷が不思議で理解不能であった。
「そして、俺を殴る蹴るを繰り返すハナの叫びの言葉に俺は驚いた。ハナは我を失って無意識に喋ってるみたいだったが…。
ハナは、赤ん坊の頃『不細工な子供はいらない。うちの子として受け入れられない。』って、理由で両親に捨てられて施設に入れられたんだね。」
…ブチ切れたとはいえ、ハナがそんな話を人に話すとは思えん
ハナは、よほどなまでに風雷の事を信頼しきっているんだな。…本人がそれを理解しているか不明だが
リュウキは、自分の事に無頓着なハナの事を考えて頭が痛くなってきた。
「その施設は最悪な所で、特殊な性癖のお偉いさん達がやってきては、お気に入りの子ども達…とんでもないのは、信じられないけど生まれたばかりの赤ん坊も性の対象にして…施設員達は、施設の子供や赤ん坊を大金と引き換えに子供達や赤ん坊にまで性を売らせていた。
碌な食事もなく、日常的に様々なハラスメントや暴力行為は当たり前。
性行為により未熟な体を壊されても放置。挙げ句、あまりに未熟な体に性行為をして内臓や脳の損傷や感染病で亡くなるケースも多く、それはお偉いさん達の力でその事件をなかった事にして揉み消していた。」
ハナは、赤ん坊の頃からそんな烈悪化な場所で育った。
「ハナは、どうしても性の対象には見られず、代わりに体も大きく無害そうな顔立ちだった事から毎日のように暴力を振るわれ酷い言葉ばかり言われ続けた。特に容姿の事を馬鹿にされ嘲笑われていたらしい。
そこまでしか聞く事はできなかったが、次のハナの言葉に俺はショックを受けた。
“お前も、アイツらと同じなのかーーーーーっっっ!!!!??”」
そこまで言って、風雷はガクッと頭を項垂れさせ悔しそうに両膝のズボンの布をギュッと握り、大粒の涙を流し泣いた。
リュウキはそんな風雷の方に優しくポンと肩に手を置くと
「気持ちをしっかり持て。今、お前たちに必要なのは話し合いだ。しっかり、包み隠さず本音で話し合う事だ。」
そう言って、善は急げとばかりに
無罪だから留置所から出ていいと言われても、断固として出ていこうとしないハナの所へ風雷を連れて行ったのである。
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【城内留置所】
「…はあ。聞きましたよ。そうだろうとは思っていましたが、個人練習の魔道不使用組み手でヒートアップし過ぎて、副団長の事ボコボコにしたって。
そりゃ、いくら格闘技でもトップレベルの副団長だって、魔道無しで無敵の団長には敵いませんって〜。
いくら、やり過ぎて反省してるからって犯罪者じゃないんですから、いい加減ここから出て行ってもらわないと困るんですよ〜。」
と、留置所で堂々と寝転んでるハナに向かって、看守は早く出て行ってくれと説得している。
それでも、聞く耳持たずで他の看守達も巻き込んで、ハナを説得している。困ったなぁ、参ったなぁとみんなが頭を抱えている時だった。
奥から何か足音が聞こえるな〜、また応戦が増えるのか。だけど、この何考えてるんだか分からないゴリラ男…あ、でっかいオッパイが付いてるから一応は女か…を、いくら人を増やした所で説得できる気がしない。
と、その場にいた看守達は絶望の目で、次にやってくる警察関連の人達であろう人物達を待った。
…しかし、そこから見えてくる人物達に気がついた看守達の間に一気に空気が張り詰められた。
「こ、これは、騎士副団長様、将軍様!ようこそ、おいでいただきました!」
と、看守達はど偉いお偉いさん達を目の前に緊張しつつも、最大の敬礼をして挨拶をした。
リュウキは素性がバレないように、よく使っている変身魔道の長けた魔道士に変装させてもらい服は将軍の服を着ている。
これは、戦場に行く時に身分を偽りよく使っている方法で、情報収集や息抜きなどで身分を隠し一般人になりすます事も多い。
「頑固な団長様を説得しに来た。取り乱したり格好悪い所は見せたくないと思うのでな。
団長様の気持ちを考慮して、団長様と副団長様の二人きりにさせたいのだが大丈夫か?」
と、聞く将軍様に逆らえる筈もなく二つ返事で、将軍と共に看守達は気を利かせ外へ出て行った。
二人きりになった風雷とハナ。
ハナは何も言わず、風雷と逆方向にゴロンと寝返った。
その様子を見て、何となくハナの気持ちを察した風雷は檻の中に入る事なくハナの入っている檻の外の鉄格子に背中を預け床に座った。
そして
「ハナ、まず最初にこんな形で言うのは失礼だと思うけど……ハナを傷付けてごめん。許される事ではないけど、きちんと言葉にして直接謝りたかったから。」
風雷が、静かにハナに謝罪の言葉を述べてもハナからは一切の返答はなかった。
……ズキン……
「…こんな話をしたって仕方ないのは分かってるけど、ハナだけには聞いてほしい。知ってほしい話があるんだ。独り言でかっこ悪いけど、俺の生まれはこの国ではない。
美と芸術の国、オモルフォス王国生まれの第三王子として生まれた。
だけど、俺の才能や能力に嫉妬した兄弟達に虐められ、大人達からは性的に見られ襲われてもおかしくない状態だった。実際、色々な手段で誘われたり襲われかけた事も少なくなかった。
だから、いつ何時も油断しないよう周りに気を張り怯えながら毎日を過ごしていた。」
と、いう話を聞いて思わずハナはその巨体を起こし酷く驚いた様子で風雷を見てきた。
その様子を見て
「…ようやく、ハナの顔が見れた。嬉しいよ。」
そう言って、風雷は全身包帯だらけの痛々しい姿で優しい笑みを浮かべハナを愛おしそうに見てきた。
だが、何をどう声を掛けたらいいのかハナは困惑し、何か声を掛けたいのに何も掛ける言葉が浮かばずもどかしい気持ちだった。
そして、自分が暴力を振るったせいで痛々しい姿になった風雷……罪悪感で心が押し潰されそうだ。
「そして、俺が7才の頃に実の母親に襲われた。母親も“そういう目で見てる”とは感じてたけど、まさか実の息子である自分を襲ってくるとは思わなかった。
そこを皮切りに、自分の兄弟達からも体を狙われて薬やら魔道、色々な手段で俺を性の捌け口にしようとしてきた。
俺はそれから何とか逃れながらも、兄弟達が手を組んで自分を襲ってきた時には身の危険に限界を感じて、城で唯一といってもいいであろう実の父親にその事を相談して、父親の弟であるリュウキ叔父さんの所へ引き取られる事になった。
そして、戸籍をリュウキ叔父さんの弟にしてもらって、そこの家とは縁を切って今がある。」
そこまで話すとハナは驚愕の表情を浮かべ、その巨体からは想像できないくらいのスピードと繊細な動きで風雷の所まで来るとギュッと風雷を抱き締め
「……よく、無事で…!!」
と、自分の事のように泣いてくれた。
…トクン…
不器用な慰め方だけど、大きくて温かな体に包まれて風雷は自分のいる場所はここだと再確認していた。
…温かい…
ハナが側にいるだけで、凄く安心するし癒される
…やっぱり、好きだな
不器用で誰よりも愛情深いこの人を離したくない
ハナの誰にも理解されない不器用な優しさも懐の深さも…弱さも全て、俺が守ってあげたい
「…ハナの事も聞いた。毎日のように
“お前は不細工で、女の魅力がないから親に捨てられた”
って、言われ続けてたみたいだけど。」
風雷が、そうハナに言葉を掛けるとあからさまにハナの大きな体が飛び跳ねバクンバクンと風雷の心臓にまで伝わってくる程、ハナの心臓は恐怖で大きく暴れていた。
そんなハナの背中を優しく撫でながら
「みんな節穴しかいないのかって驚いた。こんなにも、可愛い女性はどこを見渡したって俺は見た事はない。
不器用過ぎて誰も分かってくれない事も多いけど、ハナは誰よりも心優しくて情に脆くて儚いか弱い女性だって事、何年もハナの側にいてずっとずっとハナを見てきた俺は知ってる。
……だから、愛するハナを俺は守りたい。例え、それがただの独りよがりだと馬鹿にされようともその気持ちは絶対に揺るがない。
誰が何と言おうと、俺はハナが可愛くて愛おしくて堪らない。」
…トクン!
「もし、誰もハナの女性としての魅力にに気付けてないなら、俺は本当にラッキーだ。
だって、こんなにも俺の心を掴んで離さない女性はハナしかいないから。こんなにも、素敵な女性を俺一人だけが分かってあげられるこの優越感分かる?
そんな素晴らしい女性を独り占め出来るかもしれないこの気持ち分かる?」
…ドックン…!
「こんな時に、言う話じゃないけど。
ハナは俺に、ハナを諦めさせる為に取った行動だと分かっていても俺を誘惑してきたハナに興奮して飛び付いてしまうくらいに俺は、ハナに常日頃からこれ以上ないエロスを感じてる。そんな事、感じさせるのはハナだけ。」
…トクン…
「もう、認めて?俺に、深く愛されてる事。俺の気持ちを受け入れてほしい。
永遠の愛を誓う。ハナが不安なら、毎日心からの愛の言葉を捧げるよ。」
…トクン、トクン…
「……あはは!愛の言葉やアプローチなら、毎日受け取ってるよ。ただ、私がそれを受け入れる度胸がなかっただけでね。…うん!決めた!
お前が真正面からぶつかってきてくれてるんだ。今度はそれに私が応える番だね。」
と、ハナは泣き腫らした顔をあげ、ニカっと笑顔を見せると
「何年も意気地なし拗らせて待たせてしまって済まなかった。お前をボコボコにした事は謝らない。お前は、それだけ馬鹿な事をしたんだ、そこは猛省しろ!」
なんて、しっかりと説教をしたところで
「…まあ、私はこんなんだから周りに色々言われるだろうし、悪口や嫌がらせもしょっ中だろうよ。それでも、いいって覚悟があるなら。
私は全身全霊、全力でお前を受け入れる。なにせ、私はお前に一目惚れしちまってから、お前という人なりを間近で見てきてそこにも惚れちまったんだ。
こんな私で良かったら、お前の恋人にしてくれないか?」
と、少し照れくさそうにハナは頭をボリボリ掻きながら告白してきた。
…しかし…
「…それは、すまない…」
さっきまで、そういう雰囲気じゃなかったの!?
あれ?私の早とちりかーーーーーッッッ!!?
と、カァーーーッと顔を真っ赤にして、パニクッって何か言い訳を考えるハナに
「今すぐ、結婚して!」
なんて、風雷は突拍子もない事を言ってきた。
「…え?…んん???私の聞き間違いか?…さっき、結婚って言葉が聞こえた気がしたんだが…?
結婚っつったって、15才以上じゃないと結婚できないよな?まして、未成年の場合は両親の同意書まで必要だ。…やっぱり、聞き間違いか!あはは…!」
と、ハナは耳くそをほじっていると
「真面目に言ってる。それに、それは一般的な話で俺達は学生でもあるが、社会人ましてやこの星のNo.2とNo.3という立場だ。
法律では、社会人として働いている場合に限り親や年齢に関係なく結婚ができるとなってる。
俺は至って本気だし、ハナを自分の伴侶にして大切に甘やかしたい。」
とんでもない告白をしてきて、心底風雷に惚れ込んでるハナはもう頷く他なかった。
結婚の承諾を得た風雷の行動は早かった。
あれよあれよという間に、婚姻は承諾されその日のうちに二人は見事に夫婦になったのである。
そして、二人が社会勉強の為に学生の内だけでもと敢えてボロいワンルームのアパートに暮らしている。その片方の部屋を解約して、ハナの部屋は汚部屋なのでさっさと撤去し、風雷の潔癖で完璧なまでに綺麗にしてある(でも、ボロい)部屋へと二人で住む事になった。
そこで、風雷のいつもの甘くアダルティーな誘惑と自分の心の蓋を開放したハナは、ようやく長年の気持ちも叶い熱く甘〜〜〜い夢のような時を過ごし
夢中になり過ぎた風雷は、防音バリアーを貼り忘れアパートや近隣住人から“アレの声がうるさい!”と、苦情が殺到したとかしないとか。
………………………
……………
………
風雷の頭の中を覗き終わった桔梗とショウは、驚愕した表情で風雷を見ていた。
そして
「…凄く、大変だったね。でも、色んな苦難を乗り越えて二人は結こ…むぐっ…!!!?」
と、感動の涙を流しながら風雷に結婚の祝福の言葉を掛けようとしたショウに、桔梗はギョッとして慌ててショウの口を塞ぎ
『色々事情あるから、俺とハナが結婚した事は内緒にしてくれ!』
と、テレパシーでショウと桔梗に注意した。
「分かったよ。とりあえず、良かったね。
おめでとう。」
桔梗は、ショウの口を塞いだ風雷の手を退け、ショウの口をノンアルコール除菌を3枚使い入念に拭いてから菌終了の合図に小さくチュッとキスをして
親友の長くもどかしくて見てるこっちまでイライラしていた二人の両片思いが無事終了した事を祝福したと同時に、風雷へテレパシーで
『…ブフッ!!あのゴリラ落とすまで何年掛かってんだよ。時間かかり過ぎにも程があるよね。風雷に男としての魅力が足りなかったんじゃないの?
それか、いつも無愛想過ぎて色気がないとか?』
と、桔梗は言いたい放題、風雷をおちょくってきた。それには、風雷もイラっとしたのだが
『永遠とも思えた恋が成就して、念願のドーテー卒業おめでとう。本当にさ。風雷は家庭や周りの最悪な環境があって人間不信になってさ。』
風雷をおちょくっていた筈が急に真面目な話をし出し
『ハナはハナで、生きるか死ぬかの地獄の様な施設で育って…心の傷が深い問題だらけの二人が結ばれるなんて正直考えられなかった。
風雷はハナに強く惹かれて心を開いて熱心に口説いてたけど。ハナは、複雑過ぎる心の病があるから何があっても恋愛関係には無縁だと思ってた。だから、一生お前達は恋だの結婚だのできないと思ってた。
…お互い両思いなのにさ。風雷がプライドも何もかも投げ捨てて必死になってハナを口説く姿も知ってるから……』
と、言ったところで
…ポロッ…
悪ガキのように笑ってる桔梗の目から、美しい雫が一粒流れ落ちていた。
「……あれ?…なんだ、これ?」
桔梗も自分に何が起きてるのか、自分でも分かっておらず不思議そうに自分の雫を手で掬い取るとマジマジとそれを見てますます不思議そうに眉間に皺を寄せて考えていた。
突然の桔梗の涙に、みんな驚くも
桔梗の目元を優しくハンカチで拭き取ってきたショウも涙を流しながら
「桔梗、嬉しいね!すごく長い間、見守ってきた友達の恋が叶って感動しちゃった。
本当に、たくさんの邪魔と…色々あったから。それを乗り越えて、ようやく結ばれたんだもん!嬉しいに決まってるよね。」
と、嬉し泣きするショウの言葉で桔梗は驚いた。
まさか、この自分がショウや自分以外で親友とはいえ他人の為に涙を流す日が来るなんてと。
驚き過ぎて硬直する桔梗に、風雷まで感極まって
…ガシッ!!
と、男らしい友情を感じられるハグをして
「…ああ、ありがとう。」
と、少し照れくさそうにお礼を言っていた。そして、不覚にも風雷も涙し、それに釣られ桔梗も次から次へと涙が溢れ落ち
「…クソッ!こんな筈じゃなかったのにな。お前の事、揶揄って笑ってやるつもりが…!…嘘だろ…マジかよ、ハハ…!」
なので、照れ隠しにこんな悪態をついて笑っていた。
友情のハグは一瞬ではあったが、風雷は照れ臭かったのかソッポを向き何事もなかったかのようにしようとしてるし
桔梗はここぞとばかりに、ゴロニャンとショウに甘えに甘えていた。
その時に
『この事は、風雷のお仕事の関係で絶対に恋人がいる、結婚したという情報は信用ある誰であっても知られてはいけない事だから俺とショウだけの秘密ね?
陽毬や唯、フジや両親にさえ絶対に言ってはダメな事みたい。それを言っちゃうと、風雷とハナの命に関わる問題みたいだから。』
と、桔梗がショウにテレパシーで伝えた事から、ショウは青ざめた顔で何度も頷き風雷を見て“大丈夫!誰にも言わないよ!”と、慌てて伝わらないジェスチャーを送り、桔梗の話は風雷にも聞かせていたので苦笑いしつつショウのジェスチャーにうなづく風雷だった。
このやりとりに、みんなも何が何だか分からないが雰囲気に飲まれ号泣していた。
あと、昼休み風雷に何があったのかとことん質問責めしてやろうと企む面々であった。
その念が伝わったのか、風雷はザワッと寒気を感じるのであった。