名前のない星座
「そんなことないですよ」
おれはやっぱり、渋木雨美のことを何も知らない。
「今やってない理由はわからないですけど、雨美先輩は、水泳競技大会のほとんどで優勝している自由形選手です」
「は……?」
おれも、話しを近くで聞いてたんであろう綾野と百井の口からも、間抜けな声が出た。
当の本人を見ると「バレちゃった」みたいな顔でこっちを見てくる。水泳の授業に出なくて大量の課題を出されてるところ、いつも見ていたのに。
ただ泳げないのかと思っていた。
誰も知らない。藤堂さんや真辺さんもきっと知らない。
「つくゆいちゃん、ごめんね。年齢制限があるから大会には出られないんだ」
「じゃあコーチになってもらえませんか?雨美先輩の泳ぎを見て水泳をはじめたんです…!」
「…もう何年も泳いでないから、役に立たないよ。頼ってくれたのに本当にごめんなさい。もう、泳ぎたくないんだ」
頑なに断るその表情は、見たことのないものだった。
「わたしはできないけど、コーチを頼めないか何人か知り合いに聞いてみるから、ゆるしてね」
力になれないことを申し訳なく思っている、はがゆさが伝わってきた。津雲さんも同じだったみたいで、それ以上は何も言わずに自分の教室へ帰っていった。
どういうことか、を聞き出す前に渋木雨美は自分の携帯をいじり出し耳に当てた。
「ぎんせー、これ」
百井が携帯画面を見せてくる。
渋木雨美の水泳での成績や大会での写真が出てきたネットページだった。