旦那様と恋の駆け引きは、1年契約
4話 8月はプールデート
〇昼 巨大温水プール

優依「プールだー!」

前話で購入した水着に着替えた優依、ウォータースライダーを前にして大はしゃぎ。

優依(私、角街(かどまち)優依(ゆい)。秀人くんと一緒に、温水プールへやってきた)

水着を着た秀人、興味なさそうに室内を見渡す。

優依(水着姿の秀人くんは見慣れなくて……。あんまり、直視できない)

秀人「優依?なんで俺のこと、見ないの」
優依「へ!?気の所為じゃないかなぁ……」
秀人「気の所為なわけ、ないだろ。水着に着替えてから、優依は俺から視線を逸らしてる」

目敏い秀人。優依へ疑いの眼差しを向ける。
優依、冷や汗が止まらない。

秀人「半裸の俺に、惚れた?」

微笑む秀人。施設内の照明に照らされ、眩しい。イケメンが際立ち、周りの女性たちから歓声が上がる。

水着女性1「ねぇねぇ、あの男の子!Jリーガーの武田秀人くんに似てない!?」
水着女性2「キャー!すっごいイケメンが、彼女と一緒に歩いてる!」

優依、危険を察知。顔が強張る。

優依(武田秀人本人だって明らかになったら、プールで遊ぶどころじゃなくなっちゃうよ……!)

優依、秀人の手を握る。

優依「秀人くん!逃げよう!」
秀人「どこに逃げるの」
優依「木を隠すなら、森の中って言うでしょ!?」

秀人の手首を引き、移動。


〇室内プール 浮き輪貸出所

優依、秀人の手首を掴んだまま、浮き輪貸出所へ。

秀人「浮き輪なんて、使わないだろ」
優依「流れるプールを楽しむには、浮き輪が必要なの!」

秀人、理解に苦しむ。

優依「どれがいいかな……。やっぱり、可愛いのがいいよね?」

優依、ハート型の浮き輪を手に取る。
秀人、不満そう。

秀人「普通の浮き輪にしなよ」
優依「えぇ……。丸いのがいいの?」
秀人「ハート型だと、左右に別れるだろ」
優依「うん。だって、ハート型だもん」
秀人「普通の浮き輪なら、優依と密着できるでしょ」

秀人、背中から優依を抱きしめる。
優依の耳元で囁く。

秀人「こんな風にね」

優依、狼狽える。

優依「じ、実践しなくていいから……!」

優依、ハートの浮き輪を手放す。
秀人、2人入れそうな真ん中の浮き輪を優依と共に頭から被る。
密着した状態で歩き出す。

〇流れるプール

優依(こうして浮き輪を腰につけて、秀人くんと密着して歩いていると……電車ごっこみたいだなぁ)

流れるプールに到着した2人。
優依、プールサイドに座り、流れるプールに足をつける。

秀人「人がいない、空白の場所を狙って」
優依「うん……」

優依(大縄跳びに途中から入るのって、緊張するよね……。流れるプールは縄じゃなくて、人とぶつかることになるから大変だ)

見知らぬ人とぶつかった時のことを掃除した優依、胸の前で両腕をクロスさせ、自分で自分を抱きしめる。

秀人「勇気が出ないなら、背中から突き飛ばしてもいいけど」
優依「じ、自分で進むよ!」
秀人「そう?」
優依「うん。ちゃんと、秀人くんもついてきてね!?」
秀人「もちろん」

秀人、優依の腹部へしっかりと腕を回す。
浮き輪がズレ落ちないように抑えた優依、覚悟を決める。

優依「いくよ……!」
秀人「いつでもどうぞ」
優依「えい!」

優依と秀人、勢いよく流れるプールの中へ。
水の中でぷかぷか浮かぶ。

優依「わぁ!流れてる!流れてるよ、秀人くん!」
秀人「うん。流れてる。楽しい?」
優依「すっごく楽しい!」

優依、秀人と密着していることなど一切気にする様子がなく、はしゃぐ。

優依「川を流れる桃になったみたいだね、秀人くん!」
秀人「そうだね」

秀人、呆れ顔。
5周流れるプールを楽しんだ所で、秀人が声を掛ける。

秀人「優依。お腹空かない?」
優依「……えっ。もうそんな時間?」
秀人「お昼、食べに行こう」
優依「そうだね」

秀人の提案を了承。
流れるプールを出る。


〇休憩エリア テーブル席 (昼食)

お昼時、テーブル席は賑わっている。
空いている席を見つけた秀人、優依を座らせ指示。

秀人「優依、席取っといて」
優依「うん」
秀人「俺、食べ物買ってくる。何がいい?」
優依「お子様ランチ!」
秀人「了解」

秀人、遠ざかる。
入れ替わるようにして、優依の背後から忍び寄る2人の男。

ナンパ男1・2:茶髪のイケてると思い込んでるチャラ男(イケてない)

ナンパ男1「ねぇ、彼女!一人?」
ナンパ男2「俺たちと一緒に、波の出るプールに行かない?」

優依、飲食店の列に並び、メニューを注文している秀人の背中を眺める。ナンパ男の存在は無視。

ナンパ男1「おいおい、無視かよ」
ナンパ男2「こいつ、イケメンの背中をガン見してるぜ!」
ナンパ男1「お前みたいなブスが、イケメンに釣り合うわけないだろ?」
ナンパ男2「俺たちのレベルが、最高にお似合いだよな~」

会計を済ませた秀人、商品をトレイに載せて優依の元へ。

優依(秀人くん、なんか怒ってる……?)

秀人の顔色は険しい。
ナンパ男を無視する優依、秀人の怒っている理由が理解できず、首を傾げる。

ナンパ男1「ほら行こうぜ」
ナンパ男2「一人でイケメンの鑑賞会されるより、ずっと楽しいからさ?」
優依「離して……!」

ナンパ男に肩を掴まれる優依、嫌がる。
早歩きでやってきた秀人、トレイをテーブルの上に置く。

秀人「俺の妻に、何か用?」

ナンパ男達の肩を片手ずつ掴み、勢いよく吹き飛ばす。背中に庇われた優依、驚愕。
ナンパ男達、秀人の妻発言に狼狽える。

ナンパ男1「嘘だろ!?ガキのくせに!」
ナンパ男2「人妻なのかよ!?」
秀人「なんか文句ある?」

秀人に睨みつけられたナンパ男達、立ち上がる。

ナンパ男1・2「「し、失礼しましたー!」」

脱兎の如く逃げ出したナンパ男を見送る秀人、ため息。
優依と対面の席に座る。

秀人「露出少ない水着、選んでよかったと思わない?」
優依「露出の多い水着を選んでたら……」
秀人「俺が割って入る前に、優依は襲われてたかもね」
優依「襲われて……?」

優依、困惑。

優依(まさか。あり得ないよ。私に女としての魅力がないから……君和は……)

君和のことを脳裏に思い描き、下を向く優依。
秀人、トレイに載せた昼食を差し出す。

秀人「これ食べて、さっきのことは忘れなよ」

お子様ランチ(ハンバーグ、ナポリタン、サッカーボール型ライス、プリン)を見た優依、目を輝かせる。

優依「ありがとう。秀人くん」
秀人「どういたしまして」

カツ丼を前に手を合わせた秀人に習い、優依も顔を上げて手を合わせ、元気よく宣言。

優依「いただきまーす!」
秀人「いただきます」

お子様ランチとカツ丼に舌鼓を打つ。

優依「美味しい!」

優依、満面の笑みを浮かべる。
秀人、笑顔の優依を見て優しく笑う。

秀人「そう。よかった」
優依「秀人くんも、何か食べる?」
秀人「じゃあ、プリン」
優依「わかった。じゃあ……」

優依、プリンをスプーンでひと掬い。秀人の皿へ載せようとする。

秀人「待って」

待ったをかけた秀人、唇を人差し指で示す。

秀人「食べさせてよ」
優依「ええ……!?」

優依、困惑。

優依(食べさせるって……私が……!?)

プリンをひと掬いしたスプーンを手に固まる優依。

秀人「早くして」

秀人、口を開けて待つ。

優依(もう。仕方ないなぁ……)

呆れ顔の優依、渋々スプーンを秀人の口元へ。

優依「あーん」

優依、秀人の口へプリンを入れる。
咀嚼する秀人、笑顔。

秀人「うん。美味しい。もう一口」
優依「い、嫌だよ……!食べさせるのは、一口だけ!」
秀人「残念」

秀人、全然残念そうには見えない表情を見せる。

優依(もう。ペース乱れるなぁ……!)

優依、顔を赤くしながらお子様ランチを完食。

優依(私らしさを、取り戻さなくちゃ!)

腹ごしらえを終え、二人声を揃えて手を合わせる。

優依・秀人「「ご馳走様でした」」

優依、波の出るプールを指差す。

優依「秀人くん!波の出るプールに行こう!」
秀人「いいよ」

食器を片付け、椅子から立ち上がる二人。
波の出るプールに向かって駆け出していく優依。

優依「秀人くん!早くー!」

立ち止まった優依、大きく手を振り、遠くから秀人を呼ぶ。

秀人「今行くよ」

静かな声で優依に告げる秀人。
心中は穏やかではない。

秀人(ほんと、可愛い。早く、俺のものになってくれないかな……)

秀人、ゆったりとした足取りで、海パンのポケットに両手を入れる。
優依を追いかけ、合流する後ろ姿。
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