忘却の天使は溺愛に囚われて
*
朔夜さんと別れた後は、変な感覚になった。
実は今までずっと夢を見ていて、目が覚めたような、そんな感覚。
友達に話したら少しは現実感が湧くかと思ったけれど、無法地帯の男と関わっているとか信じてもらえないだろう。
逆に敬遠されるかもと思い、あえて話していない。
「それでさ……」
「あははっ、そんなことあったね!」
今日も友達とたくさん遊んでたくさん話し、満喫していた。
思い出話に花を咲かせていると、ふと友達のミカが「そういえば」と少し言いにくそうに口を開く。
「乙葉がまだこっちにいる時に、乙葉らしき人とすっごいイケメンが一緒にいるのを見かけたんだけど、あれってまさかの彼氏だったの?」
「……え? それっていつ頃の話?」
過去に恋人がいたことはあったけれど、いずれも中学時代の話でミカも相手を知っていたはずだ。
まるで今の言い方じゃ、ミカが知らない相手と付き合っていたように思い、疑問だった。
「私が見たのは高校入ってすぐ辺りかな。でも中学の時から見たことあるって友達もいて、何人か目撃者がいるよ。もうすっごいイケメンだった! 明らかに年上の、大人の男性って感じで」
思わずガタッと、持っていたグラスの音を立ててしまう。
ふと頭に浮かんだのは朔夜さんの姿。