忘却の天使は溺愛に囚われて


「もっと詳しく教えてくれない? 相手の特徴とか、その時の私はどんな感じだったとか……」

 声が震える。
 ミカが見たのは本当に私と朔夜さんなのだろうか。

 そもそも全く記憶にない話だったけれど、ユキもそうだったし、いったい私の身に何が起こったの?

「乙葉が覚えてないってことは、やっぱり勘違い?」

「いや、ちょっと記憶が曖昧っていうか、その時の状況を思い出せないんだよね。話聞いたら思い出すかもしれないし」

 ミカは不思議がっていたけれど、詳しく教えてくれた。

「男の人はさっきも話した通り、大人の男性って感じでイケメンだった! あと気になったのは……乙葉の雰囲気がいつもと違っていたことかな。学校ではいつも楽しそうに明るく笑っているのに、その時はなんていうか、無表情で怖く感じたっていうか……」

「学校とは違う様子……?」
「そうなの! あと他にも気になったことがあったんだけど、なんだっけな……またわかったら話すね」

 もう数年前の話だ、すぐに思い出せなくても無理はない。

「見間違いだったかもしれないし、あまり気にしないでね」

 見間違いだったらいいな。
 けれど、複数の目撃者がいるのに見間違いというのは難しいだろう。

 私の知らない何かがある……?
 曖昧な記憶を辿りながら、ミカと別れるまでモヤモヤした気持ちでいた。

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