忘却の天使は溺愛に囚われて




「浮かない顔をしてどうした?」
「あっ、朔夜さん……」

 朔夜さんは帰りも迎えに来てくれた。
 少し私の方が早く、ユキやミカの話を思い返しながら待っていると、そう声をかけられた。

「ありがとうございます。わざわざ迎えに来ていただいて」
「俺が勝手にやってることだから気にすんな」

 慌てて笑顔を浮かべると、朔夜さんはどこか不満気だったが、慣れた手つきで私にヘルメットを被せる。
 カンナさんにも同じようなことをしていたのかな。

「どうした? そんな見つめて」
「あの……いや、やっぱりなんでもないです!」

 一瞬、カンナさんについて尋ねようと思ったけれど、まだ勇気が出なかった。

 きっと今の状態では何を聞いても思い出さないだろう。
 実は双子説だとか、二重人格だったり……? と、憶測だけが膨らんでいく。

「ちゃんと掴まっとけよ」
「はい……!」

 朔夜さんからは追及されることなく安心する。
 振り落とされないようにギュッと掴まり、朔夜さんの家へと目指した。

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