忘却の天使は溺愛に囚われて
*
「浮かない顔をしてどうした?」
「あっ、朔夜さん……」
朔夜さんは帰りも迎えに来てくれた。
少し私の方が早く、ユキやミカの話を思い返しながら待っていると、そう声をかけられた。
「ありがとうございます。わざわざ迎えに来ていただいて」
「俺が勝手にやってることだから気にすんな」
慌てて笑顔を浮かべると、朔夜さんはどこか不満気だったが、慣れた手つきで私にヘルメットを被せる。
カンナさんにも同じようなことをしていたのかな。
「どうした? そんな見つめて」
「あの……いや、やっぱりなんでもないです!」
一瞬、カンナさんについて尋ねようと思ったけれど、まだ勇気が出なかった。
きっと今の状態では何を聞いても思い出さないだろう。
実は双子説だとか、二重人格だったり……? と、憶測だけが膨らんでいく。
「ちゃんと掴まっとけよ」
「はい……!」
朔夜さんからは追及されることなく安心する。
振り落とされないようにギュッと掴まり、朔夜さんの家へと目指した。