忘却の天使は溺愛に囚われて


「不安なら脱衣所で歌でも歌いながら待ちましょうか? 私、こう見えて歌は上手い方なんですよ!」
「……そこまでしなくていい。ガキじゃないんだから」

 私がドヤ顔をしながら話せば、ようやく朔夜さんが安心したように笑ってくれる。

 うん、これでいい。
 この夢のような時間が終わるその日まで、私は私らしく朔夜さんに接すればいい。

 これ以上朔夜さんに踏み込まず、一定の距離を保ちながら。
 そうではないと、きっと苦しくなって後悔するだけだ。


 朔夜さんのいない部屋は広くて、静かで、寂しかった。
 ああ、きっと朔夜さんは不安の中、この部屋で過ごしてきたのだろう。

「……はあ」

 食器の片付けを終え、ソファに座りながら朔夜さんが戻ってくるのを待つ。

 私らしく接すると決めたのはいいものの、顔に出てしまいそうで不安だった。
 けれどその不安は、朔夜さんを見て一気に吹き飛んだ。
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