忘却の天使は溺愛に囚われて
「暁人くんだよ、暁人くん!」
「暁人……あっ!」
名前を言われてようやく思い出した。
暁人くんは、クラスのムードメーカー的存在で、格好良く男女共に人気だった。
私は暁人くんと席が近くなった時、自然と仲良くなって周りからよく付き合っているだろと茶化されていた。
実際、私は暁人くんのことを良いなと思っていた……のだろうか。
あれ、おかしい。不思議なくらい、暁人くんに対する感情が思い出せない。
「あたしたちも他のクラスメイトもみんな、ふたりが付き合うって思っていたんだよね」
「そうそう! 暁人くん、乙葉と話す時はね、もうわかりやすいぐらい“好き”が顔に出てるから!」
懐かしそうに盛り上がるふたりの話を聞いて、私もひとつ思い出した。
私と話す時の、暁人くんの表情を。
目が合うと頬を赤らめながらはにかむ姿。
私に向ける、愛おしそうな、熱さを含んだ視線。
その表情を見るたびに私は胸が痛んだ。
それは……どうしてだっけ。なぜ私は苦しかったのだろう。