忘却の天使は溺愛に囚われて


「でもふたりは付き合わなかったよね」

「しかも、急に話さなくなったから何があったんだろうってびっくりした! 乙葉も暁人くんも、何も話そうとしないし……あれ、どうしてだったの?」

「……えっ」

 残念ながら、ふたりの期待に応えられそうになかった。
 ふたりの話を聞いてもなお、その時のことが思い出せない。

「どうして……だろう。暁人くんは何か言ってなかったの?」

「暁人くんに聞いた人もいるみたいだけど、困ったように笑って濁すだけで、結局理由はわからなかったみたい。もちろん乙葉もね」

「また教えないつもり〜?」

 ふたりに詰め寄られ、どう返答しようと悩んでいると、ふと周りが騒がしいことに気づいた。

「見てあの人、すっごく綺麗」
「芸能人か?」

 私たちは周りの異変に気づいて視線を移すと、カフェに入ってきた女性が注目を浴びていた。
 その女性はとても美しく華やかで、カフェにいる人たちの視線を集めていた。

 綺麗な人……周囲が芸能人かとざわつくのも納得できる。
 カールのかかった長い髪を靡かせながら、ヒールの音を響かせて店内を歩く。

 その女性が私たちの席を通りかかろうとした時、目が合ってしまった。
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