忘却の天使は溺愛に囚われて
やばっ、見過ぎだ……!
慌てて視線を逸らしたけれど、絶対バレたよね……?
恐る恐る女性を見ると、なぜか彼女は……目を見張り固まっていた。
何か驚くことがあったのか、手に持っていた鞄を落とすことにも気付いていない様子だ。
「どうして……」
「え……」
気のせいだろうか。
先ほどから見つめられているような……。
「どうして、あなたがここにいるの……?」
女性の声が震えている。
鞄も拾わず、私の元に近づいてきた。
「ねえ、教えて。今更どのツラ下げて帰ってきたの? あなた、自分が何をしたかわかってるの?」
「あの、いったい何の話ですか……」
「いい加減にして! どれだけ朔夜を傷つけたら気が済むの⁉︎」
ドクンと、心臓が大きな音を立てる。
今、彼女はなんて……?
確かに朔夜さんの名前を口にした。
じゃあ彼女は朔夜さんと関係のある人で、“カンナ”を知っている……?
戸惑いのあまり言葉を詰まらせていると、テーブルの上に置いてあったコップの水を思い切りかけられる。
「ちょっ、なんですかあなたは! 急にこんな……」
慌てて友達が間に入ってくれたけれど、女性は私を鋭く睨みつける。
「あんたはそうやっていつまでも黙ってるつもり⁉︎ 勝手にいなくなって、散々朔夜を苦しめて……もしかして朔夜に会ってないよね? 言っとくけど、あんたが朔夜に会う資格なんてないから。二度と姿を見せないで!」
女性はそのまま店を後にする。
私は呆然とその後ろ姿を見つめるだけしかできなかった。