忘却の天使は溺愛に囚われて




 水かかってびしょ濡れになってしまい、私たちもすぐにカフェを後にした。
 家が近かった友達がシャワーを貸してくれ、着替えも用意してくれたことで、体が冷え切らずに済んだ。

 心配されたけれど、何も聞かれることがなくて救われた。
 だって、私もカフェで会った女性が誰なのかわからないからだ。

 結局その後の予定が狂ってしまい、友達の家で過ごすことになった。

 楽しい一日になるはずだったのに、友達と話している時も別のことを考えてしまい、気を遣わせてしまったと思う。

 また遊ぼうねと約束して、私は友達と別れた。
 朔夜さんとの待ち合わせ場所まで歩いていると、昨日遊んだミカから電話がかかってきた。

 迷わず電話に出ると、明るい声が耳に届く。

『あっ、乙葉! 昨日ぶり!』
「昨日ぶりだね。どうしたの?」

『そうそう! 昨日さ、乙葉とイケメンが一緒にいるのを見かけたって話をしたでしょ?』
「うん」

『それで思い出したことがあって……そのイケメンが、乙葉のことを“カンナ”って呼んでいたの!』
「……カン、ナ」

『だから乙葉に似た別人かなと思ったんだけど、やっぱり心当たりない?』

「多分違う人かな……ごめんね、わざわざ連絡してくれてありがとう」

 それ以上話す気にはなれなくて、電話を切る。
 ミカが見たのは私に似た“カンナ”と呼ばれる人。

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