火炎
第4章
第4章

「別れましょう」あたしは慧さんに電話をかけて、今度こそ一方的に別れを切り出した。
「なんで?いやだよ。俺の真子だもん。なんでそんなこと言うの?悲しいよ」と慧さんは言った。
「さようなら」あたしは電話を切った。ラインが立て続けになり続ける。あたしは無視した。ラインが500通に到達した時、無視するのも難しくなったので、スマホの電源を切った。
 チャイムが鳴った。あたしは怖くて居留守を使う。おそらく慧さんであろうと思われるその人はチャイムを何度も鳴らし、しまいにはドアを暴力的に叩き始めた。
 あたしはクローゼットに隠れて、警察に電話をかけた。事情を事細かに説明している間も、慧さんはまるで原始人のように戸をたたき続けた。
 警察がやってきて、慧さんに注意をし始め、私は電話で呼ばれて戸口へ出た。
「今度お相手にストーカー行為のようなことをしたら、罪に問いますからね」と警察の人は強く言った。
「彼女に会いに行くのがなにが悪いんスかねぇ」幼稚腐った態度で、慧さんは言った。最後には納得して、あたしのアパートをあとにした。あたしは、つけられていないかなど注意するようにと言われた。

 次の日、あたしはワイルドローズのアロマを垂らした、想いの丈を語った恋文と押し花の栞を入れた封筒に封をしてカバンに入れた。幸人くん宛の手紙だった。
 しかし、大学についていつもの時間に食堂に行くが、雪人くんはいなかった。この時間は授業がお休みでいつも食堂にいるのに、残念だ、と思った。
 慧さんのラインはブロックされ、受信拒否をして連絡なつながらない状態になった。人からの連絡に縛られないとはこれほど、楽なことなのかと思う。
「(あたしはここに居ていいの?)」雪人くんがそばにいなければ、あたしは学内ではひとりぼっちだった。束縛がなくなった今、思うことは、また狂った世界に戻ってしまえば、このぽっかり空いた胸の大穴は、埋まるだろうかという、禁断症状のような考えであった。
 あたしは、トイレに行って泣いた。涙が止まらなくて、吐き気も止まらなかった。発作的に涙が止まらなくなるから、授業中にその発作が出たら恥ずかしいから、あたしは授業に行けなかった。落ち着いたので個室から出て鏡を見た。酷い顔だった。泣いて目が腫れているからではなく、「ヤバい世界」で生きている女の、目がすわっていて、悲壮感ただよう、近寄りがたい顔だった。あたしは笑おうとした。腹が立って鏡を割りたくなって、ハンドソープの容器を掴んだ。こんなもので鏡が割れるものか。また、帰ることにした。
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