離婚記念日
「ご、ごめんなさい。私は太一くんに会えない」

「なぜ?」
 
やっと発した言葉に太一くんはすぐに返してくる。
私は首を振りながら何度も繰り返した。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「莉美。謝って欲しくない。話し合わないか?」

優しく声をかけてくれればくれるほど私は頑なになる。
私の存在はなんと言われようが太一くんの足を引っ張る。それに……彼には決して言えない隠し事がある。それを知ったら彼はなんて思うのだろう。
私は立ち上がるとフラフラしながら太一くんを振り切るように走り出した。
目の前に止まっているタクシーを止めるとすぐに発進してもらった。
玄関のドアを開けると三和土に座り込んでしまう。
うわーん……。
抑えることのできない声は部屋に響き渡る。
どうして太一くんは来たの?
太一くんの声を聞きたくなかった。
やっと3年経ったのに。
彼に会いたかったと言われて嬉しくないわけがない。でもそう思ってはダメなのに。
太一くんが良くても周りは私をよく思うはずがない。
痛いほど理解して、あれほど苦しい思いで離婚したのに。またあんな思いはしたくない。
私は消えてしまったお腹の存在を思い出すように手を当てた。
私は太一くんだけじゃない。私の勝手な行動のせいでこの子もいなくなった。後悔しても取り返しがつかない。
私のことは忘れて、太一くんだけは幸せになって欲しい。
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