離婚記念日

太一side

やっと莉美に会えた。
いや、偶然再開できただけだ。
町田さんには莉美の気持ちを大切にしてから会ってほしいと言われていたのに、返事をもらう前に会ってしまった。
偶然とは言え、目の前に現れた彼女の姿に幻かと思った。けれど膝を抱え、うずくまった姿を見て居ても立っても居られなくなり声をかけてしまった。
彼女のあの姿を見て声をかけない選択肢はなかった。3年ぶりに見た彼女の小ささに抱きしめてあげたくなった。
声をかけても顔を見せてくれない彼女は頑なに膝に顔を埋めていた。
何度も謝る姿に苦しくなる。謝る必要なんてないんだ。そう伝えたくても莉美は首を振るばかりで顔を上げてくれない。会いたかったと伝えても何も言ってくれない。
もう後悔はしたくない。
このまま離したくない。
けれど彼女はフラフラと立ち上がったかと思ったら走り出してしまう。
一歩出遅れてしまい、タクシーに乗られてしまった。
くそっ。
すぐに追いかけたいが、彼女の様子を見ると俺とは会いたくなかったのだと思った。
彼女がいつまでも自分を想っていてくれるはずだなんて勝手な考えだったのだろうか。
でも……俺は莉美を離せない。
もう一度振り向いてくれるまで何度でも愛してると伝えたい。
走り去るタクシーを見つめながら改めて決意した。
俺にとってこの3年は血の滲むような努力で成り立っていた。それもこれも莉美を迎えにいくため。俺の地位を確立し、誰かの力を借りなければやっていけないと思わせたくなった。政略結婚で地盤を固めなければやっていけない後継者だなんてそもそもブリジャールにはいらない。企業を背負うとはそんな甘いものではない。
両親は政略結婚も悪くないと思っているが、それはたまたま相性のいい相手だったというだけ。息子の俺にも政略結婚をさせようと考える馬鹿馬鹿しい考えは捨てるべきだと何度も説いた。
勧められる見合いを全て断る俺の姿に両親は諦め始めていた。
そもそも好きで結婚した相手を勝手に退けたくせに、見合いがうまくいかないとなると焦っていた。誰でもいいから結婚して孫を見せろなんて支離滅裂な発言をする親に我ながら
呆れて今は絶縁状態だ。
このままブリジャールから離れてしまいたいと何度も考えた。
でもそれでは、莉美が俺のために身を引いた決断を無にしてしまう。
俺は後継者としての責任は果たすつもりだ。そして何よりも大切な彼女を取り戻そうと決意した。
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