赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 千枝華は思わず一歩あとずさる。
「ごめん、怖がらせるつもりはなかった。ただ……」
 大和は悲し気に微笑した。
「心残りをなくしておきたかったんだ。君が幸せならいいんだ。だが、私には今の君が幸せそうに見えない。彼にふさわしくなろうと無理をして、つらそうに見えてしまうんだ」
 心残りとはどういうことだろう。ひっかかるが、彼はかまわず続けた。
「なのにこの前も彼は君を守りもしない。私なら君にそんな思いはさせない」
 まるで告白だ。こんなことを急に言われて頭も心も処理がおいつかない。
「私は……君に会うために社長になったんだ。どうしても、会いたくて」
 なぜ、と聞きかけて千枝華はこらえる。どんどん大和のペースにはまっていってしまっている。
 大和は千枝華の手をとる。
「社長なんて、起業すれば誰でもなれます」
 ふりほどいてまた一歩下がった。
 大和は寂しげに微笑した。
「肩書には惑わされないな。君は賢い。やはり、私は君が好きだ」
 今度ははっきり好意を口に出され、千枝華は顔をひきつらせた。
「そういう正直なところも好きだよ」
「冗談はやめてください」
「かわいいなあ。でもこれくらい受け流せるようにならないと彼の横には立てないんじゃない?」
 大和はくすくすと笑い、ふとなにかに気が付いたように真顔になる。
「もしかして、二人ってまだ……」
「な、なにを言ってるんですか!」
 千枝華の顔が真っ赤になった。
「……二人の間には距離を感じていたんだ。なんだか納得したよ」
 距離がある。千枝華も感じていたことだった。そしてそれはたぶん、自分のせいだ。
「こんなに魅力的な君を放っておくなんて考えられない。私ならすぐに結婚して離さないのに」
 大和は千枝華の長い髪をすくいとり、口づけた。
「な、なにをっ……」
「もし……だよ。もし彼にほかに女がいたらどうする?」
「いい加減にしてください!」
 千枝華は彼を振り払って走り出した。
 その後ろ姿を見送り、大和は苦笑した。
「ちょっと必死過ぎたかな?」
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