赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 だが、千枝華は動揺していた。効果はあったように見えた。
「お嬢様相手では豪華ディナーにプレゼント攻撃なんていうベタな方法は効かないのがめんどくさいんだよね」
 まあいいや、と彼は踵を返す。
 いくつかの情報は……彼女を攻略するための情報はとれた。また次の口説き文句を考えればいいだけだ。

***

 会話を重ねるごとに、千枝華は将周にひかれていった。
 図書室に来るのは、選ばれた本が置かれているのだから面白さが保証されているように思うから、と彼は語った。
 千枝華が先を譲ったあの本は、書店での予約を忘れていたので図書室に探しに来たのだと言う。
 二人はただ本のことを語り合い、笑いあった。
 ときには真剣に話をしすぎてケンカになりそうなときもあったが、必ず将周が折れてくれて、すぐに仲直りができた。
 その優しさに、さらに胸が熱くなった。
 彼は自分をどう思っているんだろう。
 ただの後輩だろうか。一年生なんて子供みたいだろうか。
 この学校はお嬢様ばかりが通っていて、外見にもお金をかけているし、子供のころからお嬢様たるべき教育を受けているから所作もすべて美しい。
 比べて、自分はただの庶民だ。中学までは、小さな会社の娘だから普通のサラリーマン家庭とかわらなかった。上品なふるまいはできないし、油断すると大口をあけて笑うし、とうてい周りの女子生徒に勝てるとは思えない。
 父親の特許が世界的企業に採用され、父は事業を拡大した。
 おかげで千枝華は高校からはお嬢様学校に放り込まれた。
 まるで別世界で、千枝華はずっと浮いていた。
 買い物や美容室のためだけに海外に行き、旅行と言えばそれも海外。別荘をいくつも持っていて身に付けるものはブランドで当然。千枝華はそれになじめなかった。
 図書室にいるときと本を読んでいるときだけが、心の休まる時間だった。
 そうして彼と出会ったのだ。
 このまま仲のいい先輩と後輩でいたほうが、ずっと一緒にいられるような気がしてしまう。
 だが、彼は三年生だから、じきに卒業してしまう。
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