赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 無性に将周に会いたくなった。
 家に着いた千枝華は、耐えきれなくなり、将周に電話をかけた。
 もうゴルフは終わっているはずだった。
 将周はすぐに出た。
「もしもし?」
 その声を聞くだけで、なんだかほっとした気持ちになった。
「ごめん、声を聞きたくなって」
「それはうれしいな」
 将周の声が優しく笑った。
「なにかあったの?」
 聞かれて、千枝華は迷う。あの男に会ったことを言うべきか。
 結局、言うのをやめた。心配をかけたくはない。
「私ね、将周さんのことが好き」
「俺も好きだよ」
 変わらない穏やかな声に、涙が出そうになる。
 大和に聞かせてやりたい。将周もちゃんと自分を愛してくれているのだ。
 が、脳裏の大和が反論してくる。
 もし彼に女がいたらどうする?
 千枝華はスマホをぎゅっと握りしめた。
 愛姫のように千枝華を蹴落として彼を狙う女性ばかりではない。二番目でもいいという女性はいくらでもいる。そういう人と将周が密かにつきあっていたら、わからない。
「私と別れたくなったら早く言ってね」
 千枝華の言葉に、将周が絶句した。
 しばらくの沈黙のあとに、将周はため息をついた。
「今から行っていい?」
 千枝華は窓の外に目をやった。
 もう日も暮れている。そろそろ夕食の時間だ。会えるのはうれしいが、こんな時間に大丈夫だろうか。彼はゴルフのあとで疲れているはずだ。
「ちょっとだけ」
「うん」
 千枝華は頷いた。結局、将周に会いたい願望に勝てなかった。
「着いたら連絡する」
 そう言って通話は切れた。
 千枝華はスマホを胸に抱きしめた。
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