赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 将周に促され、千枝華は座る。彼は正面に座った。
 穏やかに彼は笑った。
「振袖、よく似あってる。綺麗だ」
「ありがとうございます。先輩もスーツが似合ってます」
 それきり、千枝華はなにを言っていいかわからず、うつむく。
 混乱していた。
 この話がうまく進めば告白を通り越していきなり婚約だ。だが、断られることになったらそれは必然、彼女の失恋を意味する。どちらに転んでも千枝華の心が大きくゆさぶられることに変わりはない。
 だけど、とちらりと将周を見る。
 できることなら彼と——。
「おすすめの本はどれもおもしろかったよ」
 将周がそう言い、千枝華は顔を上げた。
「今度は俺が本を紹介したいな」
「……ぜひ」
 言葉が続かず、千枝華は窓の外に目をやった。
 紅葉が燃えるようだった。
「きれいだね」
 千枝華の目線を追った将周が言った。
「山梨に紅葉のきれいな散歩道があるんだ。今度一緒にどう?」
 千枝華は驚いて将周の顔を見た。
「君と出掛けてみたいって思っていたんだ」
 千枝華の目から涙が溢れた。
 将周は驚きうろたえ、ポケットからハンカチをとりだして千枝華に渡す。まっしろでアイロンのかかったハンカチだった。
「ごめん、そんなに嫌だなんて思わなかった」
 千枝華は無言で首をふった。
 うれしいです。
 そう言いたいのに、声が出なかった。
 ひっく、としゃくりあげると将周はおろおろと立ち上がり、千枝華の隣に膝を突いて彼女の背を撫でた。
 何か言わなくては、と思うのに、なにをどう言ったらいいのかわからない。
 将周が千枝華の顔を覗き込む。
 泣き顔を見られたくなくて、千枝華は顔をそらした。
 将周が千枝華の背から手を離した。
「ごめん……」
 将周が席に戻る。
 何か言わなくては。
 先輩が喜んでくれそうなことを、なにか。
 混乱する頭を必死に巡らす。
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