赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 そうしてようやく、一言を言った。
「おすすめの本、貸してください」
「……もちろん、貸すよ」
 将周の声は困惑していた。
 再び沈黙が降りた。
 千枝華は借りたハンカチをぎゅっと握りしめた。
 呼吸の音がやけに耳につく。心臓の音すら将周に聞こえてしまいそうだ。
「ごめんなさい、驚いてしまって……嫌とかじゃないです」
 必死にそれだけを言った。
 将周はほっとしたように微笑した。
 それだけで、場の空気が和んだように見えた。
「ここ、庭園が綺麗なんだって。外、歩いてみる?」
 千枝華は頷く。
 立ち上がった将周は千枝華にそっと手を差し伸べる。
 千枝華は顔を赤くしながらその手を取った。

***

「ごめん、結局夕食をごちそうになって」
 千枝華の家でひとときをすごした将周は帰り際に彼女にそう言った。
 かけつけた将周を、千枝華は夕食でもてなした。とはいえ、作ったのは家政婦だが。
「こちらこそごめんね、ゴルフで疲れてるのに。バイクの運転、気を付けてね」
「大丈夫だよ。今日はハーフだったし」
 安心させるように、将周は千枝華の頭を撫でた。かたわらには彼の愛車がある。
「このバイク、あのときの?」
「ずっと整備して乗ってる」
 お見合いのあと、二人で山梨の紅葉を見に行った。
 将周は中型二輪で迎えに来たので、千枝華は彼を待たせて慌てて着替えたのだった。
< 19 / 42 >

この作品をシェア

pagetop