赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「バイクって思った以上に寒くてびっくりした」
「ごめん、君にかっこいいところ見せたくて焦ってたんだよ」
 千枝華が笑うと、将周も笑った。
 笑顔を湛えたまま、将周はまた千枝華の頭をなでた。
「良かった、元気になった」
 千枝華の胸がきゅんとしめつけられた。思わず彼に抱き着く。
 抱きしめ返したあと、彼は彼女の顔を上向かせる。
 千枝華が目を閉じると、やさしいキスが訪れた。

 将周が事故を起こしたと聞いたのは、翌日のことだった。
 本人からの連絡だった。
 帰りについでに気晴らしに走りに行って、カーブでバランスを崩して転んだのだという。
「ちょっとコケただけ。大丈夫だから」
 彼はそう言ってスマホ越しに笑った。
「バイクのほうが被害がでかくて修理中なんだ。打ち身でちょっとカッコ悪い感じになってるから、しばらく会うのは控えさせて。ごめんね」
 彼の声はあくまで明るかった。が、強がっているようにしか思えなかった。
 自分のせいだ、と千枝華は落ち込んだ。
 彼が無理をして会いに来て、事故にあってしまったのだ。
「自分のせいだ、なんて思ってない?」
 見透かされたように言われて、千枝華はどきっとした。
「俺自身のせいだから。気にしちゃダメだよ」
 千枝華は胸がしめつけられた。
 この優しさに甘え過ぎてはいないだろうか。
 将周の負担になってはいないだろうか。
「また連絡するから」
 そう言って将周は通話を切った。
 千枝華はスマホを手にため息をついた。

 千枝華は父の会社で事務員として働いている。
 コネ入社だ。結婚したら退社することが決まっているから、と最初から父は腰掛けで働かせることを決めていた。
「社会人としての経験も必要だろうし、腰掛けでもしっかり働いてもらうからな」
 父はそう言った。特別扱いはしない宣言をされているので、通勤も電車だ。
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