赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 定時に仕事を終えるとそのままお茶のお稽古に向かう。
 大和が再び現れたのは、先生にダメ出しをされてへこんで帰る途中だった。
 彼は駅前の道の真ん中で老齢の女性にぺこぺこと頭を下げられていた。
 通せんぼされた形になって立ち止まると、女性は彼女に気がついて頭を下げた。なんとなく会釈を返す。
「ごめんなさいねえ。道に迷っていたらこの人が駅まで送ってくれたのよ」
 女性はまた大和に頭を下げてから駅へと向かって歩き始めた。
 大和と目があった。
 千枝華はきまずい思いで会釈して自分も駅へと向かう。
「待ってよ」
 大和が苦笑まじりに呼び止める。
「意外に優しいのねー、とか言うところじゃない?」
「誤解されたくないので」
「将周くんに? 今ここにいないのに? ……彼は女と会ってるかもしれないのに?」
「彼が誰と会おうと自由です」
「強いなあ」
 また大和が苦笑した。
「それなら君が私と会うのも自由じゃない?」
「断るのも私の自由です」
「いいなあ、その強気。好きだよ」
 なんのてらいもなく彼は言った。
 千枝華は動揺を隠せない。この人といるといつも調子がくるってしまう。
「彼が事故を起こしたとか」
 大和の言葉に、千枝華は目をそらした。どうしてこの人は的確に自分をゆさぶってくるのだろう。
「なんで知ってるんですか」
「そういう話はすぐ聞こえて来るんだ」
 将周は御曹司で大和は社長だ。その業界ならではのコネクションがあるのかもしれない。
「君以外の女に会いに行った帰りという噂も聞いた」
 思わず顔をあげた。大和の真剣な顔がそこにはあった。
「君は彼に愛人がいても許せる人なのか? そこまでの覚悟があるか?」
 考えたことがないわけではなかった。
 だが、将周は女遊びをするような人ではなかった。
 そもそも、遊ぶような人が千枝華の不安を察して会いに来てくれるわけがない。
 そう思っていたのに。
< 21 / 42 >

この作品をシェア

pagetop