赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「私は君と違って将周くんを信じていない。将周くんは……」
 言いかけて、大和はやめる。
「私はけっこう君に一筋なんだけどな」
 結局、大和は別のことを口にした。
「……ごめんなさい。無理です」
 千枝華は頭を下げる。
「答え、早過ぎない?」
 顔を上げた千枝華を、大和は優しい微笑で見つめる。
「彼のためにいつも無理をしている。私なら、そんな無理をさせないのに」
 無理しないで、と将周は言ってくれる。だが、無理をしないで彼の横に立っていられない。素の自分なんて、彼に見せられない。
 だが、それが他人の大和にまで知られているなんて。
「私は成り上がろうとしている最中の社長だ。私といれば君は無理をする必要がなくなる」
 大和はふんわりと微笑した。千枝華の心を解きほぐすように、包みこむように。
「君を愛している」
 まっすぐに大和は千枝華を見つめる。その情熱的なまなざしに、頭がくらくらした。
「……困ります」
「困らせるのは本位じゃない。だが、黙っていられない」
 大和は千枝華を抱きしめた。
「私じゃダメか?」
「離して!」
 大声をあげると、大和はすぐに彼女を離した。
 千枝華は逃げるように改札をくぐって駅に入った。
 うしろ姿を見送り、大和は微笑を浮かべる。
「好感度アップのためにおばあさん雇ったのに、スルーとはなあ」
 大和はひとりごちる。
「かたくなだな。時間がないことだし、作戦を早く進めるか」
 呟きは夜風にのって、誰にも届かずに消えた。

 ホームについてすぐ、千枝華はスマホを取り出した。
 将周の声が聞きたい。
 が、ふと思いとどまる。
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