赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 電話をして、ケガをしている彼になにを言うつもりなんだろう。彼以外の人にときめいてしまったとでも言うのか。女と会っていたのは本当かと問いただすのか。
 電車が轟音とともにホームに入って来る。
 髪が風でまきあげられて顔にかかった。
 キキーッというブレーキ音がひどく耳障りだ。
 プシュー、とため息のような音がして扉が開く。
 車内はやけに明るく見えた。
 夜を裏切る明るさだ。
 意味もなくそんなことを思うと、人々を詰め込んだ扉がまた音をたてて閉まった。

***

 千枝華と将周の婚約はすぐに学校中に知れ渡った。
 クラスではひそひそされて針の筵だった。
 しばらくの辛抱だ。冬休みがあけたらもう忘れ去られることだ、将周と婚約できた幸運に比べたらなんてことない、と千枝華は耐えた。
 だが、ある日の放課後、図書室にいるところに2組の少女が訪れた。
 彼女は目に涙をためて千枝華を糾弾した。
「私が告白する予定でしたのに!」
 その言葉で、千枝華は彼女がクラスメイトが噂していた女性なのだと気が付いた。
「だから成金は嫌われますのよ! 父親の特許がなければあなたなんて!」
 続けざまに千枝華を罵り続けた。
「なにかおっしゃいなさいよ!」
 彼女は右腕を振り上げた。
 後ろには本棚があって逃げ場がない。
 叩かれる、と目をとじた。が、衝撃が来ない。
「先輩……」
 少女の声に目を開けると、いつの間に現れたのか、将周がその手を止めていた。
「千枝華を傷付けたら俺が許さない」
 ぎろっとにらまれ、少女は泣きそうになりながら逃げ去った。
「もっと早く来れたらよかった。ごめん」
「先輩のせいじゃないです」
「君はそうやって我慢するんだな」
 将周は苦笑するように息をついた。
「婚約したんだし、先輩ってやめないか」
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