赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
翌日はもんもんとしながら一日を過ごした。
仕事と習い事を終えて家に帰ると、届け物がありましたよ、と母に告げられた。
送り主は天王寺大和になっていた。
なんだか嫌な予感がした。
受け取った小包を部屋に入ってから開梱する。
入っていたのは、博物館にありそうな古びた洋書だ。素手で扱っていいようには思えない。
こんな価値のありそうなもの、受け取るわけにはいかない。
だが、返すためには彼に連絡をとらなくてはならない。
送り状には大和の電話番号が書かれている。
住所は送り主も届け先も彼女の家だった。返送されないようにしたのだろう。
将周に連絡をしてみようか、とも思うが、事故をしたばかりの彼に負担をかけたくない。
いつも彼に甘えてばかりだ。
こんな女では、彼が魅力を感じないのは当然ではないのか。
これくらいの戯言、受け流せないと彼の横には立てないんじゃない?
大和の声が蘇る。
ぐっと歯をくいしばり、千枝華はスマホを手に取った。
「うれしいなあ、君から連絡がもらえるなんて」
土曜日の晴れた午後、待ち合わせ場所に現れた大和は、にこにこと千枝華を出迎えた。
「駅前で待ち合わせなんて、庶民的だね」
いつも彼女が使っている駅だった。どうせ利用駅は彼にバレている、ならば人目のあるところで待ち合わせをしたほうが良いと千枝華は考えたのだ。
二人のことなど知らない人々が、他人の顔で通り過ぎていく。
「お返しします」
千枝華は大きなバッグに入れて来た宅配の箱を取り出して突き出した。
「気に入らなかった? 王冠物語の原語の初版。本が好きって聞いたからこれならと思ったんだけど」
王冠物語は19世紀末期に書かれた本で、ファンタジー好きには根強い人気のある物語だ。その原語の初版本ともなれば百万円はする。
「もらう理由がありません」
「ほんの気持ちなのに」