赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「本当にあいつでいいのか? こんな男なんだぞ」
 千枝華の前で、将周はいつも優しかった。
 ほかの女の匂いなど、一切させなかった。
「将周さんがこんなホテルに……」
 何かの間違いだ、とすがるように大和に言う。
「逆に、こういうホテルだから身バレがしにくいかもしれない」
 千枝華はぎゅっと唇をひき結んだ。信じがたい気持ちで写真を見るが、どれだけ見ても将周であることに変わりはない。
 彼を拒否したことで、彼はほかに求めるようになってしまったのだろうか。そこまで彼を傷付けてしまっていたのだろうか。
 自分からは彼を求めることはできないでいた。それはお嬢様のすることではないだろうから。彼のためにお嬢様でいたかったから。
 それが、こんな結果に繋がるなんて。
「ここ最近、仕事を言い訳にして君に会いにくることも減っていただろう? 女と会っていたんだ」
 確かに、仕事が忙しいと言っていた。だが。
 千枝華の目に涙が浮かぶ。
 覚悟はしていたつもりだった。
 だが、こんな写真を見せられたら、やはり平気ではいられない。
 胸が震えて、雫が頬を伝ってこぼれ落ちた。
「千枝華ちゃん……」
 大和が体を起こし、そっと手を伸ばして彼女の涙を拭った。
「君はきっと、それでも彼を愛していると言うんだろう。だけど、一度でいい、私を……俺のことを考えてみてくれないか」
 ふわりと温かさが千枝華を包んだ。大和に抱きしめられたのだ、と温かさの次に気が付いた。
 なぜか、ふりほどくことができなかった。
 どうしたらいいのかわからなくて、手の中の写真を見つめる。
 写真の中の将周はにやにやと女を見つめている。
 千枝華が見たことのない下品な笑い方だった。
 ふと、違和感を覚えて写真を凝視する。
「千枝華ちゃん」
 大和がその手をつかんだ。
「俺を見て」
 大和の手をふりほどき、千枝華は別の写真を手に取る。
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