赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「もうすぐお医者さまが来るんでしょう?」
「来ないよ」
 彼は目だけで笑った。
「この期におよんであんな嘘信じてたんだ。純粋だなあ」
 千枝華は愕然とした。
「警戒心が強いわりに、こういう嘘には弱いね。優しいのは美点だが、心配になるなあ。生真面目で、こちらが思う通りに振り回されてくれたしね」
 くすくすと大和は笑う。
「秘書も偽物。帰って来ないよ」
 千枝華は必死に身をよじる。が、大和の力は強くて、びくともしない。
「迎えが来るまでたっぷり時間はある。ゆっくり楽しもうか」
 言いながら、大和は上着を脱いだ。
 
 送られて来た写真を見て、将周は顔をしかめた。
 駅だけの写真だった。
 送って来たアドレスに覚えはない。
 しばらく写真を眺め、それが千枝華のよく使う駅だと気が付いた。
 少ししてまた届いた写真は、千枝華がいつぞやの名刺の男——大和と会っている写真だった。
「どういうことだ!」
 思わず声を上げた。
 続けざまに、大和と千枝華が肩を寄せ合う写真が送られてくる。そのまま二人が車に乗る写真もあった。
 千枝華に電話をするが、電源が切られている。
 いてもたってもいられなくて、外へ出る準備をする。
 転んだときに打った腕が痛んだが、そんなことを気にする余地はなかった。
 革ジャンを着てヘルメットを持ったところでまたメールが届いた。
 今度は高速に乗る写真だった。
 分岐をどちらに進んだのか、これだけではよくわからない。
 将周は手掛かりを求めて写真をじっと見つめた。
 車は富士山ナンバーだ。静岡県と山梨県の二県で使われている。
 ということは、西に向かったのだろう。問題はその後に向かったのが山梨なのか静岡なのか。
 どっちだ。
 イライラと見つめるが、写真だけではわからない。
 とにかく西だ。
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