『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
 佳奈は覚悟を決めるようにして顔を上げた。そして病院を後にすると、東京に向かって車で移動する。五時間ほどかけて東京の病院に到着すると、祖母はもう手術を終えていた。緊急措置が間に合い、今は麻酔が効いて寝ているという。付き添いたいけれど、真奈を連れたままではかえって迷惑になってしまう。戸惑う佳奈に礼二は「僕のマンションが近いから、まずはそこで休もう」と声をかけてくれた。
「でも、ホテルに泊まります」
「真奈ちゃんはハイハイする時期だろう? フローリングの床でゆっくりできる方がいいよ」
「そんなこと、ダメです」
「遠慮しないで、佳奈。何もしないからくつろいでほしい。真奈ちゃんの離乳食を作るのも、キッチンを使ってくれていいから」
 礼二の申し出は正直なところ助かった。家を出てきたはいいけれど、赤ちゃんを連れてホテルに連泊する余裕もないし、キッチンがしっかりある方がいい。佳奈は複雑な気持ちになりながらも、真奈のためと割り切ると、彼の部屋へ移動した。
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