秘密


「お母さん」

 お母さんは優しく微笑んだ。

「なに?」

 私は言ってはいけない言葉を叫ぶように言った。

「おかしげはるとふりん!!」
「―――は?」


 お父さんなのか、それともお母さんのかわからないくらい地に落ちた声だった。
 聞いたこともないくらい底を這う響きだった。一瞬びくっと身を縮ませる。
 お父さんが首を捩じって、いつも優し気な瞳を呆然と色を失わせてお母さんを見ている。

 お母さんは亡霊を見たような怯えた目で私を見た。お父さんはこちらを一切見ず、ただ断罪する口調でお母さんに確認する。

「…終わってなかったのか?」

 お父さんはおかしげはるとふりんを知っているようだった。段々と感情が戻ってきたのか、憎々し気に顔を歪めた。
 お母さんはゆっくりと興味を無くしたとばかり私から視線を逸らして、座ったままのお父さんを凍てつくような無表情で見下ろした。

 お父さんはその間も「おい、何か言え」とか、「いつからだ」と激昂し、とうとう立ち上がってお母さんの胸倉を掴んだ。
 お母さんはそれでも無言を貫いたままだ。
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