ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「お起きになる時間でございます」
「もう少し」
 母が起こしに来たのだと思った。そんなの、どれくらい久しぶりだろう。
 むにゃむにゃと布団をかぶると、くすくすと笑う声がした。
 はっと目が覚めた。
 ばっと起きるとかさねがいた。
「お目覚めですね」
 かさねがワゴンでココアを入れていた。
 差し出され、桜空は受け取った。ベッドの上で飲んでいいのか迷ったが、出されたのだからいいだろうと口にする。
 甘くて温かくて、それだけでほっとした。
「朝食を召し上がられたら屋敷をご案内いたします」
「はい」
 桜空は急いでココアを飲み干した。
 
 着替えはかさねがしてくれた。というか、一人でさせてもらえなかった。
 食堂に行くとすでに漣が席にいた。
「おはようございます。お待たせしました」
 漣はじろりと見ただけで返事をしなかった。
 朝食が運ばれて来た。焼きたてのパンにオムレツ、肉汁たっぷりのウインナーに、彩りのいい温野菜とサラダ。淹れたてのコーヒー。おいしいはずのそれらはやはり緊張で味がせず、食が進まない。
「口に合わないか」
「……おいしいです」
「お前は抱き心地が悪い。少しは肉をつけろ」
 カーっと顔が熱くなる。一昨日、押し倒されたことが脳裏に浮かんだ。
「この程度でいちいち」
 くく、と漣が笑う。
 完全に遊ばれている。桜空は悔しくて恥ずかしくてうつむいた。
「お前にプレゼントがある」
 食後、漣はそう言った。
 和志が入ってきてお盆に乗せたジュエリーケースを漣に渡した。
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