ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「良い返事だ」
 言って、彼女の頬に口づける。
「——!」
 桜空の体が跳ねた。彼はくくっと笑った。
 この先には不安しかなくて、彼女は顔を真っ赤にしてため息をついた。
 
 朝食後、漣は和志とともにすぐに仕事に出た。
 残された桜空は部屋に戻る。
 その後、かさねに連れられて屋敷を案内される。
 先に庭を案内します、と黒塗りのデルセデス社のコンバーチブルに乗せられた。このタイプには珍しい4人のりで、オープンになった後部座席にかさねとともに乗る。
 車で回らないといけない庭って、と桜空はあきれた。
 敷地内にはプールにテニスコート、乗馬のための馬場も厩舎もり、高級車が20台ほど入った車庫もあった。古墳まであると知ったときには開いた口がふさがらなかった。
 小さな川が流れ、池には色とりどりの鯉が泳いでいる。
「鯉はだんな様のご趣味で、1匹2億円のものもいるんですよ」
「2億!」
「泳ぐ宝石と言われても私にはただの鯉ですけどねえ。そうそう、1本1億円のワインもワイン庫にあるんですよ。信じられないですよね」
 桜空が頬をひきつらせると、かさねはほがらかに笑った。
 桜空が要求した額が1億だった。ワインで1億、鯉で2億なら、漣が100億なのも妥当な気がした。
だが、それが桜空なら1億どころか100万も怪しいかもしれない。
「人間より価値のある鯉……」
「人の価値はお金では決められませんよ」
 かさねはにこにこと言った。
 庭には様々な植物が植えられていた。各季節には敷地内で花見ができるという。
 火事に備えて消防車もあるという。
「別邸には坊ちゃまの従兄の八菱祥介様がお住まいです。たまに本邸にもいらっしゃいますが、お近づきにならないでくださいね」
「わかりました」
 車でまわったのに一時間かかった。
 その後は迷いそうなほど広い屋敷内を案内される。
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