ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
 玄関ホールは昨日も見たが余裕でキャッチボールができそうなほど天井が高くて広い。客室がいくつもあり、リビングは大宴会場かと思うほど広い。トイレも浴室の数も多く、サウナやジムもあった。ビリヤード室もダーツ室もシアタールームもあった。ところどころに高そうな絵画や壺などの美術品が置かれていた。地下は主に従業員が使っているという。結局、屋敷は大きめのショッピングモールほどの広さがあった。
「メイドさんは通うのが大変そうですね」
「みんな住み込みですよ」
「……私もここで働きたい」
 従業員の住居も整っているに違いないし、給料も良さそうだ。
「なにをおっしゃるんですか、将来の奥様が」
 かさねに笑われ、桜空は慌てた。
「そういうんじゃないんです」
 とっさに否定してしまった。が、まずかったかもしれない。
「未来ことはわからないので」
 慌てて付け足した。
 いたたまれなくて周囲を見回したとき、開けられた扉越しにそれを見つけた。
「こちらは?」
「パーティールームです」
 まるでホテルの大広間だった。外に面した一面の大きなガラスの向こうにはヨーロッパを思わせる庭園がある。幾何学模様の赤っぽい絨毯がしきつめられ、天井にはシャンデリアがきらめく。
 その部屋の奥にあるものに、桜空は目を奪われた。
 ガラスのグランドピアノだった。透明なボディは日を受けてきらきらと輝いている。
 後ろの壁はステンドグラスになっていた。だが、その見事さよりもなおいっそうの存在感を放っていた。
「あのピアノ、弾けるんですか?」
「もちろんです」
「いくらぐらいするんだろう」
「1億円だそうですよ」
「1億!」
「弾いてごらんになりますか?」
「遠慮します」
 値段を聞いたあとでは、挑戦する気にならなかった。
 一通り見たあとに通されたのは、桜空のために用意された部屋だった。
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