ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
 小さな花がちりばめられた上品な白い壁紙に、絨毯はベージュで落ち着きがある。照明はシャンデリアだった。
 やわらかそうな白いソファにピンクのクッションが並べられ、猫足の白いテーブルがあった。チェストも猫足だ。同じく猫足の白いドレッサーにはすでにたくさんの化粧品が並べられていた。
 桜空は声が出なかった。
「お気に召しませんか?」
「逆です」
 桜空はふらふらとクローゼットに歩みより、開けた。
 もうクローゼットというより部屋だった。たくさんの洋服とドレスが並び、シューズボックスにもたくさんの靴。
 部屋に戻って見てみると、チェストの上のジュエリーボックスには指輪もネックレスもブレスレットも入っていた。チェストにはレースたっぷりの下着。
 あの人が選んだの?
 漣が真顔で下着を手に取る様を想像し、慌てて頭を振る。服のときみたいに店員任せにしたに違いない。
「本当に私が使ってもいいんですか?」
「坊ちゃまがあなたのために用意なさったんですよ」
 桜空はため息をついた。二日前には想像もしなかった事態だった。
 夢でもいい、と桜空は思った。
 少しでも長く続きますように、と願った。

 夢がそうそうに崩れそうになったのは夜のことだった。
 晩餐に呼ばれた桜空は漣以外の二人の男性を見ていつも以上に緊張した。
 一人は年配で漣に似ていて上品なスーツ姿だった。もう一人は漣より少し年上のようだ。派手にブランドロゴの入った上下のスエットを着てだらしなく椅子に座っている。
 素敵な音楽が聞こえる、と思ったら奥でバイオリンを弾いている人がいた。
 桜空は呆然と立ち尽くす。ご家庭に四重奏なんて見たことがなかった。
「こちらにおいで」
 いつになく優しく漣に呼ばれ、戸惑いながら彼の横に立つ。と、彼は立ち上がって桜空の腰に手をまわした。
 並んで立つ彼の背は高い。180くらいあるだろうか。154センチしかない自分とはまったく違った景色が見えていそうだった。
「恋人の群咲桜空さん。こちらは俺の父で鋼太郎。こちらは従兄の八菱祥介」
 初めまして、と頭を下げる。鋼太郎は無関心のようだが、祥介はじろじろと無遠慮に彼女を見た。
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