ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「緊張して……」
「部屋に戻るか?」
「そうさせてください」
 漣が目を向けると、かさねが寄ってきて桜空を立たせた。
 祥介の射るような視線を感じ、桜空はただ震えて歩いた。

 桜空はその後、部屋でぼうっとソファに座っていた。
 ドアがノックされた。
 どうぞ、と答えると漣が入って来た。サンドイッチの載った皿をテーブルに置く。
「ろくに食べてなかっただろう」
「ありがとうございます」
 意外な気遣いに桜空は驚いた。
「不審な動きをするな。相手に悟られる」
 これが言いたくて来たのか。感謝はあっさりとしぼんだ。
「察しがいいのは良いことだが」
 一応ほめられたのだろうか。桜空は窺うように漣を見る。
 漣は閉まっているドアを見たあと、桜空の横に座った。そのまま彼女を抱きしめる。
「なにを!」
「黙れ」
 その手で口を塞ぐ。うう、と声が漏れるが、彼はおかまいなしだ。
 しばらく様子を見たあと、彼は手を離した。
「誰かが中を窺っていた。もういないようだが」
 ドアを見て桜空は驚く。見えなくても気配で彼はわかるのだろうか。
「お前、男慣れしてないな」
 桜空の朱に染まった頬を見て、楽しそうに漣は言った。
「あなたに関係ないです!」
「それを決めるのは俺だ。父親の会社は俺しだいだってことを忘れるな」
 漣はくくっと笑って出て行った。
 そうだ。自分だけではなく父の会社、ひいては従業員の命運を彼が握っているのだ。
 なんとか印象をよくして父の会社を守らないと。
 桜空はサンドイッチを眺めてため息をついた。

 翌日の夜、帰宅した漣はメイド長から受けた報告に顔をしかめた。
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