ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
 どこへ行くのかとびくびくしていたら観覧車が見えて来た。
 まさか、とどきどきしていたらそのまさかだった。
 リムジンは通常の入口とは違う場所から入り、ジェットコースターの前で止まった。
「今日は貸し切りだ。好きなだけ遊べ」
「貸し切り!?」
 関東でも指折りの有名なテーマパークだ。
 冷たいとはいえこんなイケメンとテーマパークの貸し切りデートなんて。
 デート自体が生まれて初めてだ。
 桜空の胸が、思いがけず高鳴る。
「行ってこい」
「は?」
 桜空は目をぱちくりさせた。
 一人でジェットコースターに乗れと言うことだろうか。
 彼は動く様子もなくタブレットを開く。
 仕方なく降りると、サングラスの護衛が車を守るように立っていた。
 園内は静まり返っている。テレビで見るテーマパークはいつも人で満ち、歓声に満ちていたのに。メリーゴーランドもフリーフォールも動いておらず、どこからか楽し気な音楽が響く様はいっそ不気味ですらあった。
 漣はいっこうに降りて来ない。
 桜空は仕方なく一人でジェットコースターの階段を上った。かん、かん、かん、と鉄の階段を上る音が妙に耳についた。
 女性スタッフがにこにこと出迎え、彼女を先頭に乗せてベルトを締める。
 なんだろう、これ。
 桜空はなんとも言えない気持ちになった。
 ぴりぴりと出発の合図がして、轟音とともに発進する。
 どこからも歓声は聞こえず、自身も悲鳴を上げる気にもならず、その勢いに揺られる。
 戻って来た桜空は、ふらふらとリムジンに戻る。
「戻りました」
「次はなにがいい」
 聞かれて、桜空は困る。
「もういい。適当に次へ行ってくれ」
 漣が運転手に言うと、リムジンが別のアトラクションの前に進む。低速で動く車に護衛が走って付いてくる。
 桜空は降りてアトラクションに乗る。
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