ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
 食後、かさねがソフトクリームを運んできた。デザートグラスに盛られ、てっぺんに赤いチェリーが載っている。
「お好きだと伺いました。坊ちゃま、わざわざ機械を注文なさって」
 桜空はただただ驚いた。
 拒否するわけにもいかず、スプーンですくって口にいれる。
 冷たいのに甘くて、漣の姿が脳裏によみがえった。
 泣きそうになりながら、次を口に入れる。
 なんであの人はあんなことするんだろう。
 なんで意地悪なのに優しくするんだろう。
 なんでこんなにふりまわされるんだろう。
 三つ目の答えは、すぐに思い至った。
 だが、認めたくない。
 あんな人を好きになったなんて。
 ソフトクリームはどんどん溶けていく。
 何度もどきどきさせられて。
 助けてくれたのもきっと気まぐれで。
 あの人には私なんておもちゃでしかない。
 あの人の心が溶けることなんてあるんだろうか。
 意地悪な笑みを思い出して、桜空はまたクリームをすくった。
 ガラスの器はすっかり冷たくなっていた。溶けかけたクリームは、なおさら甘く桜空に沁みた。

 翌朝、食堂に現れた漣に桜空は言った。
「ソフトクリーム、ありがとうございます。でももう私のために無駄にお金を使わないでください」
 漣はぴくっと眉を動かした。
「無駄か。ならば捨ててしまおう」
 桜空は驚いて漣を見た。彼は無表情だった。
 機械の値段は知らないが、安いものではないだろう。それを捨てるだなんて。
「会社に置いたらいかがですか?」
 とっさに桜空はそう言った。
「食堂で無料……は無理でも格安で食べられたらうれしいと思います」
 漣はけげんな目を向け、そうか、とだけ答えた。

「祥介に動きはあるか」
 出勤の車中で漣は和志に尋ねた。昨夜、桜空にからんでいたとは聞いた。
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