ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「大きな動きはございません」
 彼女の存在にいらついてはいるようだが、そう簡単には動かないようだ。
「……女はめんどくさい」
 漣がこぼした呟きに、和志は眉を上げた。
 漣はひじをついて窓の外を見ている。
「テーマパークも喜ばない、ソフトクリームが好きだというから買ってやったら文句を言う」
 和志は苦笑した。
「本人の望みを聞いたらいいと思いますよ」
 漣は心底めんどくさそうに顔をしかめた。

 夜遅くに帰って来た漣は、リビングで社史を読む桜空を見てまた顔をしかめた。
「読まなくていいと言っただろう」
 ひょい、とそれを取り上げる。付箋が増えていた。
「勉強になるので。私、今まできちんと勉強できなかったんです」
 ため息をついた漣を見て、桜空は居心地悪く座り直した。
「ソフトクリームは会社で好評だった。礼を言う」
 桜空は驚いて彼を見た。無表情で、感情はまったく読めない。
「なにかしたいことないか」
「なにかって……」
「今までの女は海外旅行だの買い物だのねだってきた。お前はしたいことはないのか」
「いっぱいあります。でもお金がかかるので」
「俺が金を気にするようなみみっちい男に見えるのか」
「……身の丈に合わないことをしたくないだけです」
 漣には理解できない価値観だった。
「あ」
 思い出したように、桜空が声を上げる。
「なんだ」
「でも……」
「はっきり言え。うだうだする女は好きじゃない」
 好きじゃない、と言われて胸がずきっと痛んだ。
「ピアノを」
 顔を赤くして、うつむく。
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