ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「いや」
 面白い反面、物足りない気もした。
 ほかの女と同じになってしまうのか。お嬢様と呼ばれた面白みのない女たちと。
 彼女らも内心はいろいろあるだろう。が、それを表に出さない彼女らは全員が同じように見えた。
「勉強とピアノを習わせてくださってありがとうございます」
 桜空は深々ときれいにお辞儀をした。
 漣はさらに面白くない。
 顔を上げた瞬間に唇を奪った。
 直後、どん! と突き飛ばされた。
「なにするの!」
 顔を真っ赤にした彼女に、漣はくくっと笑った。
「それでいい。……お前はそれがいい」
 満足そうに笑みを浮かべて、彼は歩き去った。
 どういうことか、桜空にはさっぱりわからなかった。
 残された桜空はかさねと目があって恥ずかしくなってうつむいた。

 その日の午後、桜空は漣に呼び出されてリビングに赴いた。
 そこにはすでに鋼太郎と祥介、議員をやっているという祥介の父の哲二がいた。メイド長、秘書の和志もいる。なぜか数人の警護もいた。
 漣の横に座るように言われ、戸惑いながら桜空は座る。黒スーツの警護がそばに立っていて落ち着かない。彼らがサングラスをしているのも威圧を感じて嫌だった。
 漣が立ち上がった。
「無駄な前置きはしない。集まってもらったのは祥介のことだ」
 不吉な予感がして、桜空は漣を見上げる。
 目が合った漣は不敵に笑って返した。
「はあ?」
 祥介は不機嫌に鼻に皺を寄せる。
「お前は俺を殺そうとしているだろう?」
 桜空はぎょっとして二人を見た。漣はまっすぐ祥介を見据え、祥介は目に見えてうろたえた。
「殺そうとしているのはその女だ!」
 祥介は桜空を指さす。
「部屋を見てみろ、ナイフが用意されてるはずだ!」
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