ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
 桜空はもがいて離れる。
「すぐこういうことして!」
「強制猥褻で通報できるぞ」
 くくっと漣が笑う。
 誘拐とどちらが罪が重いだろう。桜空はうつむいた。
「今後のことは追って知らせる。部屋に戻れ」
 桜空はとぼとぼと部屋に戻った。
 豪華な部屋が静かに彼女を出迎える。
 花柄の壁紙も、シャンデリアも猫足の家具たちも見事な装飾品も、なにもかももうすぐお別れだ。
 体面を守るためだと言う。が、漣は罪を見逃し、贅沢な生活をさせてくれた。憧れのピアノを一緒に弾いてくれた。ここに来なければ触ることはおろか見ることもなかっただろうガラスのピアノを。
「ありがとう」
 誰に言うともなく呟いた。涙があふれたが拭う気にはなれず、ソファに倒れ込んでただ泣き続けた。

 次に漣に呼び出されたのは翌日の夜だった。
 リビングにいくと、漣は若干不機嫌そうだった。手には不似合いなスポーツ新聞を持っている。
 メイドたちは一礼して全員が下がった。
「私の出て行く日が決まったんでしょうか」
 二人きりになったのを見計らって桜空は聞いた。
「君はこのまま俺と結婚する」
 ぽかんと口を開けた桜空に、漣はスポーツ紙をつきつける。
 見出しを見て、驚いた。
 日本最高の御曹司のお忍びデート!
 お相手は小さな町工場の娘!
 現代のシンデレラストーリー!
 それらに続いて記事が書かれている。載っている写真は桜空と漣にしか見えない。
「これ、なんですか?」
 内容はわかった。が、それこそが理解しがたかった。
< 36 / 44 >

この作品をシェア

pagetop