ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「俺の性格はわかっているだろう? 抵抗しても無駄だ」
「心までは買えないわ」
「そうだとしても俺は金で君を手に入れる。そうして君は俺に金で買えないものをくれる。そうだろう?」
 この人を言い負かすことなんて、出来そうにない。そもそも自分はもう彼を愛している。こんな負けが確実な戦いなんてあるものか。
 静かに涙をこぼす桜空に、漣は言う。
「泣くな。笑え」
 さっきは泣きたいなら泣けと言ったくせに。
「命令なの?」
「そうだ。いつも笑っていろ」
「拒否します」
「それも一興。俺が笑わせてやる」
 くくっと笑う漣を、彼女はキッと睨みつける。
「少しでもいい人と思った私がバカだった」
「俺は自分がいい人だと言った覚えはない」
 漣はまたくくっと笑った。

「くそ!」
 自室でスポーツ紙を見た祥介は、それを床に叩きつけた。
 目論見はすべて崩れていく。
 心中に見せかけて漣を殺そうと思ったのに、彼は相手の女を連れ帰った。
 新聞に醜聞を売ったらハッピーストーリーに変えられた。
「こうなったら」
 祥介は机の引き出しを開けた。
 黒く光る鉄塊を手に、にやりと笑った。

 夜中、桜空はこっそりとパーティールームに向かった。
 幸運にも鍵はかかっていなかった。
 入って電気をつけると、一瞬目がくらんだ。
 ガラスのピアノに向かうと、蓋を開けた。
 持って来た教本を置いて座り、ページを開く。
 防音がしっかりしていることを祈って弾き始める。
 うまくは弾けなかった。何度もつっかえ、ぽろん、ぽろん、とぎこちない音が落っこちていった。
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