ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「まだまだだな」
 くくっと笑う声がした。
 振り返ると、いつの間にか漣がいた。夜着にガウンを羽織って立っている。
「ピアノ、楽しいか?」
「……はい」
「どうしてこんな時間に?」
「最後にもう一度弾いてみたくて」
「俺と結婚すればいくらでも弾ける」
「身の丈にあった結婚と生活をしたいんです」
「生活に身の丈を合わせろ」
「無茶苦茶です」
 桜空はあきれた。
 がちゃ、とピアノに近い側の扉が開く音がした。
 はっとそちらを見ると祥介がいた。突き出されたその手にあるのは拳銃。
「動くな!」
 腰を浮かす桜空を隠すように、さりげなく漣は前に出た。
「お前ら、俺のことバカにしやがって!」
「いつも通り浅はかだな」
 漣はいつものようにくくっと笑う。
 祥介が足元に向けて発砲した。轟音に、桜空は身を竦める。
「殺してやる!」
 祥介の手が震えている。
「殺人は今までみたいにもみ消せないぞ」
「黙れ!」
 また漣の足元に発砲し、怒鳴る。その手は震えている。
「今なら謝れば許してやる。土下座しろ。全財産を俺に譲ると言え」
「断る」
 漣は即答した。
「その女も殺すぞ!」
「できるわけがない」
 漣は笑みを崩さず、一歩を踏み出した。
「来るな!」
 漣は歩を緩めない。
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