ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「笑うな」
「泣け、泣くな、笑え、笑うなって。私、どうしたらいいの?」
 漣は苦笑するようにため息をつき、手に力を込めた。
「バカなことをしたな。あれくらい俺なら対処できたんだ」
「またバカって言われた」
「それくらい言わせろ。君が死ぬかもしれないと思った瞬間、心臓が止まりそうだった」
 桜空は信じられない気持ちで彼を見た。
「もう二度とこんな思いをさせるな。ずっと俺のそばにいろ」
「やめてください。まるでプロポーズです」
「そうか……そうだな」
 彼はふっと笑う。
「君はもう証明したな」
「え?」
「俺は君を愛してしまったようだ」
 漣の微笑に、桜空の胸が大きく高鳴る。
 やはりこれは夢だ。
 こんな都合のいいこと、夢以外にはありえない。
 漣の顔が近付いてきて、桜空は目を閉じた。
 ごほん、とわざとらしい咳が響いて、桜空は目を開けた。
 漣の顔は唇が触れる寸前で止まっていた。
「野暮だな」
 漣は目を細めて入口の和志を見る。
「漣様らしくない。周囲に気をお配りください」
「お前こそ気を使え」
「急ぎの用事です」
 和志はタブレット端末を漣に突き出す。
 こんなもの、と文句を言いながら漣はタブレットを操作した。
「ご無事でなによりです。漣様をお守りくださりありがとうございます」
 和志は恭しくお辞儀をした。
「かえってご迷惑をおかけしたみたいで」
「迷惑なのは漣様です。あなたが倒れた、自家用ジェットで運ぶから手配しろと大騒ぎでした。でもまあ、あんなに取り乱した漣様を見るのは初めてで得した気分です」
 茶目っ気を出して彼は笑った。
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