ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「余計なことを言うな」
 タブレットから目を離さず、漣は言った。
「まさか庭に滑走路が?」
「さすがにありません。ヘリはありますが飛行申請もすぐにはとれません。普通に救急車できました」
「作ろうかな」
「しゃれになりません、おやめください」
 漣がタブレットを和志に返すと、お医者様を呼んで参ります、と彼は退室した。
「ケガはないそうだ。すぐに退院できる」
「そう……」
「あの男はアフリカの離島に軟禁する。言葉の通じない辺境で船は一週間に一度の貨物だけ。二度と日本には来られない。安心しろ」
 桜空は黙って彼を見た。内容に現実味がなくて実感できなかった。
「とにかく大丈夫なのね? 漣さんはもう命を狙われないのね?」
「こんなときに俺の心配か。変わった女だ」
 漣は桜空を抱きしめた。
 桜空はどうしていいかわからなかった。が、しばらくしておずおずとその背に腕を回す。
 漣はさらにきつく彼女を抱きしめた。
 桜空の目に涙が浮かび、するりと落ちて光った。

 退院した翌日、午後のお茶に呼ばれてリビングに行ったときのことだった。
「まああ! なんてかわいらしい方!」
 初めて会った漣の母、凛子は興奮して桜空の手をとった。
「なんで早く教えてくれなかったの? そしたらすぐ帰って来たのに!」
 きゃっきゃと喜ぶご夫人に、桜空は戸惑って漣を見た。漣は苦笑するばかりで助けてはくれない。
「私にも娘ができるのね! お母様って呼んでいただけるのよね?」
「あ、あの」
「ダメなの?」
 とたんにしょんぼりする。
「お母様……」
 凛子は満面の笑みを浮かべた。
「お父様がお祝いに南の島を買うんですって。ね!」
 凛子はソファに座る鋼太郎を振り返る。
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