ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「もういい全部買う。あとで選べ」
「だ、ダメです!」
 慌てて止めた。
「選びに選んだ、ということにしたほうが、よりそれっぽいかもしれませんね」
 黙っていた和志が口をはさんだ。
「そうです、無理に買わなくても」
「めんどくさい。だから女は嫌なんだ」
 桜空はあっけにとられて漣を見た。
「こちらなどお嬢様にお似合いかと思います。ピンクダイヤです」
 店員がにこにこと手で示す。大きなピンクダイヤの左右に小さな透明のダイヤが飾られていた。土台はプラチナだ。
 お嬢様、と桜空は内心で反芻する。
「まあまあだな」
 漣は指輪を取り、桜空の左手を取った。そのまま薬指にはめる。
 思いがけない行動に桜空の胸がどきっと鳴った。顔を真っ赤にしてうつむく。
「ふうん」
 面白いものを見るように、漣は桜空を見た。
 そのまま左手を掲げるようにして、挑発するように彼女を見ながら口づける。
「なっ!!」
 桜空はさらに顔を赤くした。全身がゆで上がりそうだった。
「しばらくは楽しませてくれよ」
 くく、と漣は笑った。
 意味がわからない。
 桜空はばくばくする心臓を抱えてうつむいた。
 
 その後、桜空は漣の屋敷に連れていかれた。
 玄関は門から車で10分ほどかかった。
 どれだけのお金持ちなんだ、と窓の外を眺めた。
 門からの道には街路樹と剪定された低木が並ぶ。
 玄関ポーチに降り立つと、メイドが並んで漣を出迎えた。
「お帰りなさいませ」
 静かな大合唱に桜空は足がすくむ。
「お帰りなさいませ、坊ちゃま」
 年配のメイドが進み出た。
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