絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
「あの……そういうわけですので、玲良さんとの婚約は解消することになります」
そんな絢子の気持ちはともかくとして、玲良にかけた迷惑についてはなにも解決していない。縮こまったまま、出来るだけ玲良に不快感を与えないようおそるおそる言葉を選ぶ。
「もう玲良さんに助けて頂く理由がなくなりますし、私にはお礼をするあてもな……」
「誰が婚約解消を許可すると言った?」
玲良の優しさには感謝するが、やはり丁寧に礼を言って辞すべき――そう考える絢子の台詞に、玲良の不機嫌な声が割り込んだ。
動きが止まる。思考も停止する。
意味が分からないまま玲良と見つめ合い、再び瞬きを繰り返す。
「婚約は絶対に解消しない」
「え……? で、でも! 私はもう桜城ではなく……!」
「それがどうした? 俺は別に〝桜城家と〟結婚するわけじゃない。〝絢子と〟結婚するつもりで準備してきた――俺から逃げられると思うな」
あっけらかんとした態度で鼻から息を漏らす玲良に、ぽかんと口を開けて固まってしまう。
匠一の実子ではないとわかった以上、玲良や獅子堂家が絢子から得られるものはなにもない。ならば絢子との婚約を解消するのも自然な流れだろうし、そうなっても絢子は玲良を恨まないというのに、彼は冷たい印象とは裏腹に内面は律儀で義理人情に厚い性格のようだ。
婚約者とはいえこれまではさほど踏み込んだ話をしてこなかったので、ここにきて彼の意外な優しさを知る。