絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 玲良がこうして優しさを向けてくれることは嬉しい。だが嬉しいと思うからこそ、やはり彼には〝ちゃんと〟幸せな結婚をしてほしいと思う。

「でも私たちは……政略結婚、ですから」

 そう。絢子と玲良の婚約は、親同士が決めた政略結婚だ。絢子は一方的に玲良に憧れているが、実際には愛のない結婚生活となるはずだった。

 だが十年続いた婚約関係も今夜で終わり。だから玲良には次こそ自分が好きになった人と結婚してほしい。獅子堂財閥の御曹司である以上完全に自由な恋愛を楽しむことは出来ないかもしれないが、幸福で愛のある未来を歩んでほしいと思う。

「ここで俺が諦めたら、絢子は別の男と結婚するのか?」
「? え……?」
「許せないな……到底受け入れられない」

 玲良の明るい前途を願う絢子だったが、そこで話は終わらなかった。ふと玲良の声がワントーン下がったことに気づいて顔を上げると、不機嫌に表情を歪めた玲良と目が合う。

「卒業までは待つつもりだったが」

 絡んだ視線の持つ熱に緊張していると、玲良の手がゆっくりと動き出した。その手が膝の上に置かれた絢子の手に重なったので、ぴくっと身体が跳ねる。

「絢子。俺と結婚してほしい」
「……え」

 身体を近づけてきた玲良がはっきりとした口調で言い募る。
 再び驚く。驚きすぎて言葉を失う。

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