婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話
03 ヒロインになってしまう苦悩
それから数日が経った。私は屋敷内であれば出歩く許可も出て、フレイヤ・ブリンデルとしての日々を過ごしていた。
使用人の中には私の言動に違和感を感じる人もいたけど「まだ頭がぼんやりしていて……」で大抵のことはなんとかなる。
怒鳴り公爵は常に機嫌が悪くて使用人に当たり散らしているし、いつヒステリックを起こすかわからない夫人と毎日お茶をしなくてはならない生活は本当に息が詰まる。
ラーシュが毎日顔を見せに来てくれる時だけほっと一息つける時間だった。
「リアの元にあまり来れなくてごめんね」
ラーシュは今夜もベランダから私の部屋を訪れていた。弟なのに堂々と部屋に入ってこれないのは、確実に夫人のせいだろう。
「ううん。毎日ありがとう」
ラーシュは毎日学園に通いフレイヤ様のことを報告してくれる。
でも報告よりもラーシュが顔を見せてくれることがありがたい。ただ一人私のことを「リア」と呼んでくれる人だから。
「今日も特に変わりなかったよ」
フレイヤ様はパーティー翌日からリアとして普通に元気に登校しているらしく、私の身体が無事だったことには安心した。
ラーシュが言うにはリアの姿をしたフレイヤ様は毎日王子の傍にいるそうだ。「助けていただいた殿下といると安心するのです」など甘えているみたい。
酷い虐めを受けていた少女は周りから見ると哀れに見えるらしいし、王子直々の断罪劇があったのだからこれからリアのことを虐める人は現れないだろう。
自分がしてきた虐めを材料にして、悲劇のヒロインを演じられるなんて心臓が強すぎないか? したたかにもほどがある。