知人の紹介で
「優作、あんたお盆はどうするの?」
「あー、こっち帰るよ」
「あの、私よく知らないんですけど、会社って夏休みあるんですか?」
「うん。俺は一週間くらいお盆休みは取るよ。陽菜ちゃんはもう夏休み?」

 もう八月に入ったし、きっとそうだろうなと思いながらも尋ねてみれば、陽菜は元気よく答えてくれた。

「はい! 試験終わってもう夏休みです。高校よりも長くてびっくりしてます」
「へー、短大も長いのか。大学の夏休みと春休みは長くてよかったなー」

 あの頃は二ヶ月くらい休みがあったなーとぼんやりと当時を思いだしながら述べれば、母が奥から小言を言ってきた。

「あんたはその長い休みをずっと家でゴロゴロして過ごしてたでしょうが」
「たまには店手伝ってただろ?」
「それは本当にたまーにでしょ? ほとんど家にいたじゃない」
「そうだけど。でも、今はちゃんと働いてるから別にいいだろ?」
「はいはい、そうねー。そのまましっかり働きなさいよ」
「わかってるって」

 そんなやり取りをしていたら、陽菜がクスクスと笑いだした。

祥子(しょうこ)さんと話してるときの優作さん、なんだか子供みたいで面白い」

 祥子は母の名だ。陽菜はすっかり両親とも仲よくなっている。

「そうよ。優作なんてまだまだ子供よ。陽菜ちゃんの前では大人ぶってるだけ」

 母親からしたらいつまでも子供なんだろうが、優作はもう二十五歳とれっきとした大人だ。

「いや、四捨五入すれば、俺ももうアラサーなんだけど」
「アラサーの大人なら、自宅はちゃんときれいに片づいてるんでしょうねえ?」

 耳が痛い。優作は掃除が苦手なのだ。さすがにごみ屋敷ではないが、ものを出しっぱなしにしていることが多いから、部屋の中は雑然としている。

「……まあ、ある程度は」
「はあー、まったく。今どき家事ができない男はモテないわよ? ねー、陽菜ちゃん」
「ふふ、そうですね。家事ができる男の人ってかっこいいですよね」

 陽菜の言葉が深く胸に突き刺さる。母に言われてもただの小言だと捨て置けるが、陽菜の言葉は無視できない。陽菜にダメな人間のレッテルを貼られてしまったら、ものすごく悲しい。別に今の優作の生活を陽菜に見られるわけでもないし、適当に言葉で誤魔化すことはできるだろうが、陽菜には正直な自分でありたいから、今後はもう少し家のこともちゃんとできるようになろう、なんて優作は密かに誓った。
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