知人の紹介で
 湊斗の受験勉強は本格化していき、今ではたびたび模試を受けるようになっていた。最初こそ志望大学の判定はC判定だったものの、最近ではB判定にまで上げてきている。

 ここからはなかなか苦しい闘いが続くだろうが、ここを乗り切らないと望む未来は手に入らない。他の受験生たちも必死に頑張っているはずだから、それに負けないようにやっていくしかないのだ。

「純花さん。次の模試で頑張れるように純花さんのパワー頂戴?」
「いいよ」

 このやり取りもすっかり定番となった。湊斗の両手を取り優しく握る。しっかりと湊斗の顔を見据えて、純花は激励の言葉を贈った。

「頑張れ、湊斗くん。いつも通りやっておいで?」

 こう言えば湊斗はいつも嬉しそうに頷いてくれるのだが、この日はまだその顔に不安そうな表情を浮かべていた。

 だんだんと受験本番が近づいてきて嫌でもそれを意識しているのかもしれない。

「大丈夫だよ、湊斗くん。大丈夫」
「純花さん、もうちょっとほしい」
「うん?」
「純花さんのパワーもう少し頂戴? ぎゅって抱きしめて?」
「それは……」

 さすがにそれは家庭教師と生徒の距離を超えている気がする。海外であればハグするのも普通のことかもしれないが、二人とも純日本人だし、応援のためとはいえ、抱きしめるのは踏み込み過ぎているだろう。

「お願い。純花さんに抱きしめてもらったら、絶対頑張れるから」

 心なしか湊斗の瞳が潤んでいるように見える。それはダメだと純花の脳は告げているが、湊斗の心細そうな表情を見ていれば、それ以上そのお願いを拒否することは純花にはできなかった。

「……わかった」

 椅子に座っている湊斗をそっと包み込むように抱きしめてみる。さすがに高校三年生の男子生徒だから、純花よりもその体は大きい。

 抱きしめてしまえば、湊斗が男なのだということを感じて、変に胸がざわつきそうになったが、純花はその感情には蓋をして、湊斗を純粋に応援する気持ちだけを掘り起こした。

「頑張っておいでね。湊斗くんなら大丈夫だよ」

 湊斗の背中を二回トントンと叩いてから、純花は湊斗から離れた。

 湊斗の顔を見てみれば、そこにはいつものかわいい笑みが浮かんでいたから、純花はほっと胸を撫でおろし、少しだけ芽生えそうになった感情は胸の奥底へとしまい込んだ。
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