敏腕教育係は引きこもり御曹司を救えるか?
山下課長からの急な別室への呼び出し。しかも、普段おちゃらけている彼がやたらと神妙な顔つきをしている。これはきっとタダ事では無い。急な人事異動? 地方転勤や追い出し部署への異動か? などと想像を巡らせながら、阿久津は会議室(通称説教部屋)の扉を閉め、課長の正面の椅子に座る。
「来年度の君の業務なんだがね」
席に座るや否や、アイスブレイクも無しに課長が話を切り出す。
ああ、やっぱり来年の話か。しかし、何を言われるのか色々と浮かびすぎてかえって想像がつかない。
「新人教育担当は外れてもらうかもしれないんだ」
「……そうですか」
複雑だった。大変ではあったが、阿久津が唯一誇れる功績は、新人を1人も辞めさせることなく各部署に送り出してきたことだった。
「私に教育担当として何か不足があったなら、聞かせてくれませんか?」
思わず聞くと、課長は少し目を丸くしたあと、ああ、と言った。
「そうじゃないんだよ。君は教育係として本当に優秀だ。君みたいに丁寧に、新人の立場に立って育てている人を私は見たことが無い」
「では、何故」
阿久津が食い下がると、課長は密室の会議室内にいるにもかかわらず声をひそめてこう言った。
「社長が、君を極秘任務につけたいと言っている」
阿久津ははじめ、課長がふざけているのかと思い彼の顔を見たが、どうもそうではないらしい。
「ええと、社長って、うちの社長で合ってますでしょう」
「合ってます」
「三友商事の佐伯社長」
「他に誰がいるかい?」
「いやあ、私、入社式のご挨拶以来、顔を見たことすらないんですけど、どうして」
これほど大きな会社となると、幹部に会う機会などそうそう無い。当然、一ヒラ社員の阿久津のことなど、会社のトップである社長が知っているはずがなかった。
「私も詳しい業務内容は分からない。ただ、社内全体の管理職に社長から『社員の中で面倒見の良いやつは居ないか』というアンオフィシャルの照会があってだな。私を含め、君を知る管理職はみんな君を推したわけだ」
「面倒見の良いやつ……? 私は一体何をするんでしょうか」
「んー分からん。ただ、社長秘書業務とかではなさそうだな。阿久津さん、雰囲気がそんな感じじゃないし……」
「はいはい、華が無くて悪かったですね」
阿久津は4カ月ほど美容院をサボっている髪を少し触りながらぶーたれた。
「いやそんな事一言も言ってないよお! とにかく、社長が君と一度面談したいと言ってるんだ。11時から30分。そこしか社長のスケジュールの空きが無いからさ、頼む! 何も聞かずにここは推薦者の我々を立てる意味でもさ、行ってきてよ」
課長が一生懸命手を合わせるので、何も分からぬまま阿久津は渋々社長室に向かった。
「来年度の君の業務なんだがね」
席に座るや否や、アイスブレイクも無しに課長が話を切り出す。
ああ、やっぱり来年の話か。しかし、何を言われるのか色々と浮かびすぎてかえって想像がつかない。
「新人教育担当は外れてもらうかもしれないんだ」
「……そうですか」
複雑だった。大変ではあったが、阿久津が唯一誇れる功績は、新人を1人も辞めさせることなく各部署に送り出してきたことだった。
「私に教育担当として何か不足があったなら、聞かせてくれませんか?」
思わず聞くと、課長は少し目を丸くしたあと、ああ、と言った。
「そうじゃないんだよ。君は教育係として本当に優秀だ。君みたいに丁寧に、新人の立場に立って育てている人を私は見たことが無い」
「では、何故」
阿久津が食い下がると、課長は密室の会議室内にいるにもかかわらず声をひそめてこう言った。
「社長が、君を極秘任務につけたいと言っている」
阿久津ははじめ、課長がふざけているのかと思い彼の顔を見たが、どうもそうではないらしい。
「ええと、社長って、うちの社長で合ってますでしょう」
「合ってます」
「三友商事の佐伯社長」
「他に誰がいるかい?」
「いやあ、私、入社式のご挨拶以来、顔を見たことすらないんですけど、どうして」
これほど大きな会社となると、幹部に会う機会などそうそう無い。当然、一ヒラ社員の阿久津のことなど、会社のトップである社長が知っているはずがなかった。
「私も詳しい業務内容は分からない。ただ、社内全体の管理職に社長から『社員の中で面倒見の良いやつは居ないか』というアンオフィシャルの照会があってだな。私を含め、君を知る管理職はみんな君を推したわけだ」
「面倒見の良いやつ……? 私は一体何をするんでしょうか」
「んー分からん。ただ、社長秘書業務とかではなさそうだな。阿久津さん、雰囲気がそんな感じじゃないし……」
「はいはい、華が無くて悪かったですね」
阿久津は4カ月ほど美容院をサボっている髪を少し触りながらぶーたれた。
「いやそんな事一言も言ってないよお! とにかく、社長が君と一度面談したいと言ってるんだ。11時から30分。そこしか社長のスケジュールの空きが無いからさ、頼む! 何も聞かずにここは推薦者の我々を立てる意味でもさ、行ってきてよ」
課長が一生懸命手を合わせるので、何も分からぬまま阿久津は渋々社長室に向かった。